尖閣問題についても、バイデン政権の方針は不透明だ。菅義偉首相がバイデン候補の勝利を確信した段階で行った電話会談で「日米安保第5条の適用範囲である」という言質を引き出したので、安心だという人もいるようだ。だが、オバマ政権時代のバイデン副大統領は、中国が尖閣を含む東シナ海上に防空識別圏を設定した2013年12月、当初は「絶対に認められない」と言っていたにもかかわらず、訪中して習近平に会ったのちは、その設定をあっさり容認した。後になって、同時期に息子のハンターが経営に関わるヘッジファンドに中国銀行から多額の資金が振り込まれていたという“噂”が一部米国メディアや華人メディアで報じられ、バイデンはチャイナマネーと引き換えに「尖閣を売った」のではないか、と憶測を言う人も出てきた。

 また「自由で開かれたインド太平洋」については、少なくともそのまま踏襲するつもりはないことも、その言動から明らかになっている。

 菅首相がバイデン候補との初めての電話会談で「『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けて連携したい」と述べたことに対して、バイデン候補が「『繁栄し、安全なインド太平洋』の基礎として日米同盟を強化したい」と答えたことを、朝日新聞など日本メディアも報じている。それに引きずられてか、菅首相までも「平和で繁栄したインド太平洋」と表現を変えてしまっている。

「自由で開かれた」というのは、「閉じられた統制社会」である中国に対峙する民主的自由社会の共通価値観の象徴であり、その価値観を守るために日米インド、オーストラリアらとともに組み立てた安全保障の枠組みだ。こうした価値観を「繁栄」「安全」「平和」といった言葉にすり変えてしまうと、平和や繁栄のために、自由で開かれた社会を犠牲にしてもいい、という誤ったメッセージを中国に与えかねないのではないだろうか。つまり、中国が軍事力を背景に圧力をかけてきた場合、あるいはチャイナマネーや広大な市場を餌に譲歩を迫ってきた場合、「民主的自由主義的な価値観を犠牲にしてでも、中国の言う繁栄や平和を受け取りたい」と言っているも同然に私には聞こえるのだ。

日本は台湾ともっと連携を

 もちろんバイデン政権が、一部の識者が言うように対中強硬姿勢を崩さず、台湾を民主国家の同盟パートナーとして関係緊密化路線を継続する可能性もあり、そうであることを強く期待している。だが、米国が中国との平和と安全を、日本や台湾との共通の価値観よりも優先するように変わっていくのならば、日本は今度こそきちんと憲法と国防の議論を行い、この米国依存体質から脱却する方法を考えるときかもしれない。

 そして、おそらくは脅威の最前線に立たされることになるのは台湾だ。もし日本が台湾との複雑な歴史を振り返り、その絆の深さに思い至るならば、日本だけで怯えたり日和ったりするのではなく、同じアジアの民主主義国家、自由社会国家同士としてもっと連携し協力し、共通の脅威に立ち向かっていく方策を考えるべきだろう。