まず予算だ。坂井市では測量と設計の予算として2020年度の一般会計補正予算に4280万円を計上した。今後の工事費は、市の予算だけではまかなえない。県や国からの補助を得るため、折衝を重ねていかなければならない。

 また、地元の観光業界や住民に、再整備の趣旨を説明して十分に理解してもらうこと、支持を得ることも必要だ。これだけの大規模なプロジェクトとなれば、当然さまざまな意見や反応が出てくる。ましてや日本の一般的な観光地再生の流れとは逆を行く前例のない構想なのだ。すぐにみんなが納得して一枚岩になれるものではない。

 東尋坊の観光業に携わる関係者は、「表立って反対する人はいませんが、本音ではもちろん賛否両論ありますよ」と明かす。商売の土台や枠組みが変わってしまうことに反発を覚える事業者が出てくることは想像に難くない。

 そうした状況について谷根氏は次のように語る。

「みなさんに納得してもらうのは、やはり時間がかかると思います。けれども、東尋坊はいま変わった方が、長い目で見ると絶対にみなさんの商売のためになると考えています。みなさんに協力し合ってもらえれば、2倍、3倍の収益を生めるはずです。同じマインドを共有していただけるよう、今、全力で取り組んでいるところです」

 さらに谷根氏は、この再整備でいちばん大事なのは「地元の方々の意識の醸成」だと強調する。「東尋坊を観光地として持続させていくのは、行政ではなくて地元の方々です。だから地元の方々に『東尋坊を良くしたい』という気持ちを持っていただくことが、何よりも大切だと考えています」。

 谷根氏は三国町の出身である。東尋坊のある町で生まれ育った地元住民として、東尋坊への思いをこう語った。

「実は、三国町民はほぼ東尋坊に行かないんです。私もこの仕事をするまでは、数えるほどしか行ったことがありません。地元の人は東尋坊に行かないんです。

 残念ながら、東尋坊という観光地がこれまで地元の人には目を向けていなかったんですね。だから、まずは地元に愛されることを目指しましょうと言っています。地元に愛されないと観光客にも愛されません。

 地元の人が、ちょっと東尋坊に行ってこようよ、みんなで行こうよ、あそこ気持ちがいいからねと、家族で足を運ぶ場所になってほしい。芝生の広場でマット敷いて子供と日光浴しようよ、帰りにおいしいもの食べようよというふうに。そういう場所にならないと絶対にだめだと思っています」