そこに加えて、新型コロナの流行によって、日本の要人との面会や会食の機会が一段と制約されてしまった。大使として就任後1年半がたった今となって、新しい人脈を開拓することはますます難しくなっている。結局、駐日大使としての役割を十分に果たすことができない状況に追い込まれていた。
ただし、今回の大使交代は南氏に対する問責的なものではない。外交部長官人事があれば長官に起用するのではないかとの観測も出ているほどだ。南大使は青瓦台国家安保室第2次長を務めていたことから、文在寅大統領の信任は現在も厚いという。
それでも、南氏の大使としての活動に限界が見えてきていたのも事実である。交代は致し方あるまい。
姜氏は文政権に意見できるのか
それでは新しい駐日大使に指名された姜氏は、どのような大使になるのか。日本の政治人脈を最大限活用し、日韓の仲介役を果たすことができるのか。文在寅氏の政治姿勢に影響力を行使できるのか。
姜氏は文在寅政権の中では「非文」派に属している。つまり、必ずしも文在寅氏と考えが一致しているわけではない。
姜氏は昨年7月、与党「共に民主党」の議員総会で、日韓関係の悪化を巡り政府の対日政策を批判した。徴用工裁判で膠着する日韓関係の中、日本が戦略物資に対する輸出を包括許可から個別許可に切り替えたのに対し、姜氏は「日本の安倍政権は悪賢くて稚拙だ。政治論理を経済問題に広げた」としながらも、「韓国政府も原則と名分に執着するあまりに時期を逃してしまった部分がある」と述べたのだ。
さらに「これが昨年(18年)12月から続いたのではないか。だとすれば原則と大義名分だけを主張するのではなく、政治的に解決していくべきだったのに、被害者団体と話し合って意見を集約している間に時期が過ぎてしまった」と述べている。当時の李海チャン(イ・へチャン)代表は何度も指で×印を作って発言を止めるよう促すほどだった。
そのような意見を持つ姜氏を、文在寅大統領が大使に任命しようとしていることに対し、韓国内では驚きの声も上がっているが、姜氏は一貫して体制に流されず独自の主張をする人だったように思う。それだけに、姜氏が大使としてどのような行動を取るのかは予測困難な部分も多い。