菱屋のスタート以降、リサイクルショップ「うさぎ」、陶芸工房と工芸品販売店「若州窯」、給食カフェ「はな結」、セレクトショップ「55c」、忍者道場という5軒が開業。さらに近々美容室もオーブン予定だ。

若州窯は、若狭の伝統工芸職人が集まって結成した「若狭の空と海とものづくり」の活動拠点にもなっている。この活動は別記事「地域活性化の資金調達、“三方よし”の仕組みとは」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62973)で触れている。

地道な空き家対策が実を結んだ

「空き家の活用については、この5年ぐらいの動きが大きいです。使われ方が変わった、所有者が替わった、空き家に入居した、という物件が5年で22軒あります。それは、コツコツと空き家対策に取り組んで来た成果ではないかと考えています」(宮本さん)。

 特別委員会は、熊川宿での生活を考える人に向けて、ガイドブック「熊川宿暮らしのガイド」というガイドブックを作成している。そのほか、空き家再生先進地での研修、空き家の所有者に対する賃貸や販売の説明、放置されている空き家周りの草刈り、売買または賃貸可能な空き家情報提供など、空き家対策にも力を入れてきた。

「ただし」と時岡さんは言う。「この5年ぐらいで若手が入ってきて盛り上がっているのはたしかですが、その下地には若狭町の役場や宮本さんたちが地道に町並みを整備し続けた20年があるのです。地味ながらすごいことを20年間やってきて、さらに外の人が入りやすい条件を整えてくださっていたからこそなのです」。

「熊川に来たときに感じたのは、若者が町屋を使ったビジネスをすることや古民家の活用について理解があり、快く受け入れていただく土壌があったことです。これまで積み上げてきたところに花が開いたという印象です。“若者が来ればいい”というだけの発想には実は重要なことが抜けていて、下地が大事だということです」(同)。

 その熊川宿の特性について、宮本さんは次のように説明する。「商売が成功すると町の中心に大きな店を構える。一方失敗すると大きな家を売って町の端の小さい家に移る。熊川にはこういう入れ替わりの文化があります。あまり家に愛着がないところが、ほかとちょっと違っているかもしれません。商売人の出入りが多かったことなどもあり、よそから人が来てくれることに対する抵抗感はほとんどないですね」。

熊川宿の旧街道を端から端まで歩くと15分ぐらい。中心から離れると人通りも少なく、静かな町並みが続く