時岡さんが熊川宿で活動を始めるにあたって、さまざまな面で頼りにしたのが、地元住民でつくる「若狭熊川宿まちづくり特別委員会」の宮本哲男会長だ。

左からデキタの時岡壮太さん、若狭熊川宿まちづくり特別委員会会長の宮本哲男さん、若狭町政策推進課の池田和哉さん

40年かけてできあがった現在の町並み

 熊川宿が、昔の風情の建物が残っていて価値ある宿場町であると“再発見”されたのが1975年。1981年ごろから調査が始まった。そして1997年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。つまり約40年という時間をかけて、現在の町並みができあがったのだ。

「当初は“町並みを保存する”ということに基軸をおいて、みなが取り組んでいました。とくに保存地区に選定されてからは、道路などのハードウェア面の整備を徐々に進めてきました」(若狭熊川宿まちづくり特別委員会の宮本さん)。

景観整備の前(昭和)と後(現在)。電線を地下化し、舗装を替え、川をコンクリート張りから石積みに替えるなどの地道な改修を行った。左の建物は修理を行い、今年の7月に給食カフェ「はな結」としてオープンした
熊川宿の旧街道(白色)は、画像左上の駐車場から右下の道の駅までの約1kmで、国道303号(黄色)と並行している。交通量の多い国道が町中を通っていないことが、町並みの維持に大きく作用したのではないだろうか(Googleマップ)
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「ただ、町並みを維持しながらも、一方で住民が生活していかなければなりません。あわせてソフトウェア面でのいろいろな取り組みも必要でした」(宮本さん)。

「仕事を持ちながら、休日にイベントに対応したり町並みを維持したり、というようにボランティアで続けていくのは、若い人であっても難しいでしょう。まちづくりの活動を自分の仕事にすれば、自分の収益にもなるし、さらに町の維持にもなるし、という好循環が生まれます。また、全国のさまざまな組織にパイプを持っていたり、個人的なユーザーを広く持っているような方にここで事業をやっていただいて、お互いが交流できると一番いいと思います」(同)。

 現在菱屋のシェアオフィスには、時岡さんのデキタのオフィス、時岡さんが東京のコーヒー専門店と組んで出店したコーヒーショップ、トレイルガイドの会社、高島市から通勤するデザイナー、が入居している。

 時岡さんはそのほかに、一棟の古民家を貸し切る宿「八百熊川」も運営している。現在1棟だがまもなく2棟目もオープン予定だ。

一棟貸し切りの宿「八百熊川 ほたる」。小さな看板以外、普通の古民家にしか見えないが、内部は現代ふうのダイニングルーム、洗面所、ベッドルームに改装されている