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 菅義偉首相が10月26日の所信表明演説において「2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする」と表明した。世論はあまり反応していないが、これは極めて大きな政策転換といってよい。

 実は、日本は脱炭素の関連分野において、先進諸外国との比較ですでに周回遅れとなっている。今回、菅氏が脱炭素を明確に主張したことは評価できるが、これまでの遅れを挽回できなければ、日本経済の相対的な沈下がさらに進む可能性が高い。脱炭素に舵を切ったはよいが、茨の道であることを覚悟する必要があるだろう。(加谷 珪一:経済評論家)

ホンネとタテマエは国際交渉では通用しない

 政府はこれまで、「2050年までに温室効果ガスの排出を80%削減する」という目標を掲げてきたが、2050年までに排出量を実質ゼロにするというのは、すでに国際社会におけるコンセンサスとなっている。

 2050年時点で80%しか削減しないという日本のスタンスはかなり消極的であり、事実上、日本は脱炭素を目指していないと解釈されつつあった。日本は、当初、脱段素を積極的に推進するスタンスを見せていたので、従来の発言は何だったのかと訝しむ声は少なくない。

 これが日本国内の議論であれば、大した問題にはならなかっただろう。日本社会は、基本的に論理ではなく情緒で物事が決まるので、当初は壮大なタテマエを掲げ、具体的な議論になると、話が尻すぼみになるというのはよく見られる光景である。また、こうした行為に対して、論理的な一貫性がないと批判されるケースもほとんどない。だが、基本的に論理がベースとなっている国際交渉の場では、こうした「日本的な態度」は相手の不信感を著しく増大させる。