孫氏の財産は生きた情報に基づくビジョン

 孫氏の過去の投資を見ると、買収した企業から彼が獲得するのは利益ではない。むしろ、彼にとってより重要であったのは、生き馬の目を抜くIT業界の中で手に入れることができる生きた情報であったように思われる。企業に投資をすることによって、孫氏自身が新たな世界、新たな情報に触れる。新たな世界が見えてきた孫氏は過去を捨て去り、見えてきたIT業界の次のビジョンにのめり込んでいく。こうした流れが、ソフトバンク創設以降、過去30年間続いてきたのではないか。

 孫氏がビジョン・ファンドを作り、巨額のスタートアップ投資に乗り出したのは、英アームへの投資により情報網が広がり、AI業界の勃興に触れることで、情報革命、AI革命で誕生してくる多数のテクノロジー企業が成長していくビジョンが彼の目に見えてきたからなのではないだろうか。そして、その成長をバックアップしていくために10兆円の資金が必要だと孫氏が感じたからビジョン・ファンドを立ち上げたのではないだろうか。

 ウィーワークへの投資の失敗、ビジョン・ファンドの赤字計上で、孫氏に対するネガティブな見方が一時的に強くなっているが、新型コロナの流行が終わり、新しい世界が見えてきた時には、もう一度孫氏の情報収集力、目利き力、投資戦略が再評価されるようになるものと思う。