現状のビジネスの大半は2000年以降の買収
ソフトバンク・グループの成り立ちを見てくると、孫氏が起業家であったのは、1994年7月の店頭公開までであったことがよくわかる。それ以降、孫氏はソフトバンクの高株価を背景としてアグレッシブに資金を調達し、その資金を効果的に使って、ヤフーを買い、さらに含み益を拡大した。そして、ヤフーと日本で合弁を設立し、インターネット検索事業を立ち上げた。孫氏得意のタイムマシン経営(日米の時差を利用し、米国の事業を遅れている日本で展開して成功を勝ち取る)で、イー・トレード証券、モーニングスターを日本で展開した。
しかし、2000年頃までに投資した株式は、数年後には上場されたり、売却されたりして、ソフトバンク・グループの傘下を離れていった。孫氏が、こうした買収で得た最も重要な経営資源は、利益ではなく、ダイナミックに変容するIT業界の生きた情報であった。
2000年代になると、孫氏は活動場所を米国から世界に広げるようになる。中国アリババへの投資では巨額の含み益を作りあげ、英ボーダフォンからソフトバンクを買い取り、米国の携帯電話会社のスプリントを傘下に収め、最後は英アームを買うことによって、今の巨大なソフトバンク・グループの事業を構築したのである。
現在のソフトバンク・グループの売り上げ構成を見てみると、2020年3月期第3四半期の売上高7兆898億円のうち、携帯電話事業などを展開するソフトバンクが3兆6178億円、スプリントが2兆6157億円、その他が8563億円という構成であり、2006年以降に買収した日米の携帯電話会社の売り上げが多くを占める。逆に言えば、それ以前のポートフォリオにあった会社の売り上げ貢献はほとんどない。
次に、保有株式価値(2020年2月12日時点)で見ると、総額31兆円のうちアリババが16.1兆円。次がソフトバンクの4.8兆円、スプリントの3.2兆円、アームの2.7兆円、ビジョン・ファンドが3.2兆円となっており、ここでも2000年以降の買収・投資戦略の貢献がすべてである。それ以前の投資収益に頼っているわけではない。
つまり、売上高で見ても、保有株式価値で見ても、孫氏が起業家として立ち上げた事業はほとんどない。現在のソフトバンク・グループのビジネスは、ほとんどすべてが2000年以降の買収により成り立っているということである。