その本質はとうの昔から投資家だった

 このように、孫氏は1994年7月のソフトバンクの店頭公開以降、一貫して投資家であり、起業家ではなかった。この点で、孫氏はユニクロでハンズオンの経営を行っている柳井正氏、ガレージから事業を立ち上げた日本電産の永守重信氏、ネット通販を自ら立ち上げた楽天の三木谷浩史氏とは、全く違う種類の経営者であるということだ。

 永守重信氏は、M&Aで連戦連勝を続けているということで有名だが、そのアプローチは違う。永守氏自身が投資した先に乗り込んでマイクロ・マネジメントを行い、すべてのM&Aを成功に導いている。

 ソフトバンクにおいては、買収後にアップルからアイフォーンを導入したという孫氏の貢献はあったが、孫氏の下で経営が大きく変わったというわけではない。スプリントにおいては、買収後、何とか経営を改善しようとしてマネジメントを入れ替える努力はしたものの、成果に結びつかず、ついにはスプリントを追い抜き業界3位の地位になったTモバイルの軍門に下るという結果に甘んじている。また、アームについても、革新的技術を持つ企業であるにもかかわらず、利益面では、ソフトバンクが買収してから落ち込んでしまったという結果が出ている。

 投資家だから、孫氏の見切りは早い。携帯電話会社のソフトバンクですら、2018年12月には上場し、徐々にソフトバンク・グループの持つシェアを落とし始めている。スプリントも合併後のTモバイルの株式売却に動いている。その流れを受けて、英アームについても、株式売却の動きにつながっていったのである。

 つまり、孫氏は買収した企業を変革して成長に導き、自らマネジメントして育てていくというタイプの経営者ではない。むしろ、その時魅力的な企業に投資し、その魅力が陰りより魅力的な投資対象が現れた時には、ためらいなく売却をしてしまうというタイプの投資家だ。

 このように、孫氏は以前から間違いなく起業家ではなく投資家であった。彼の強みは、IT業界の情報収集力、その中から魅力的な企業を見出す目利き力にあったのだ。