11月3日に、4年に一度の米大統領選が実施される。4年前の2016年11月は共和党のトランプ候補が下馬評の高かった民主党のクリントン候補に勝利、世界中に衝撃を与えた。今回、再選に挑むトランプ大統領は、民主党の指名を得たバイデン候補と対決する。
その選挙戦におけるハイライトの一つ、トランプ大統領とバイデン候補による討論会が実施される9月29日を前に、今回の大統領選や討論会の見どころと、読者が抱えているであろう疑問を米政治や社会事情に精通した米国在住の酒井吉廣氏が答える。今回は初級編。(聞き手は編集部)
──大統領選では必ず候補者同士の討論会が実施されます。なぜ討論会が注目を集めるのでしょうか。
酒井吉廣氏(以下、酒井):理由は大きく3つに分かれます。
まず、一般的な米国の有権者にとって、選挙までの間で討論会だけが唯一、集中的に大統領候補の話を聞くチャンスだからです。大統領選挙は4年に一度、米国民が直接投票でリーダーを決めるものです。予備選を含め、2年近くの時間をかけて実施しているにもかかわらず、有権者の多くはテレビのニュースや新聞記事を読む程度で、大統領候補について知る機会がほとんどないのが現実です。
次に、大統領候補がライバルを前にして(=相手の反論を覚悟して)自分が正しいということを主張し合う場面は討論会以外にはありません。つまり、候補者の政策案などが対立候補の反論にあっても耐えられるものかどうかを知る機会だからです。
最後に、この討論会が選挙の実勢を決める、逆を言えばそれまで劣勢でも逆転するチャンスになっているからです。しかもそれは、過去の討論会の実績として証明されています。
例えば、前回(2016年)の討論会では、クリントン候補がトランプ候補(当時)の女性問題を冒頭から批判しましたが、土壇場で「お前の夫のしたことをみてみろよ(ホワイトハウスにインターンに来た大学生と性的関係を持つような、とほのめかした)」と答えたことは、大きな影響を与えたと言われました。
正々堂々とした候補者かどうか、本当に自分たちのための政策を実行できる人なのか、粘り強い人なのか、といったことを3回の討論会で見極めるという感じになっています。