連載「ニューノーマル時代の大学」の第10回。春から夏までの数カ月間、大学はほぼリモート教育に切り替わり、教師と学生はパソコンやスマホを介して向き合うようになった。専修大学商学部の渡邊隆彦准教授が大学の教育現場最前線から、学生、教師、事務職員を含む、ヒトと大学との新しい関係を解き明かす。「ニュータイプ全寮制大学」「コ・キャンパス」「ノマド・スチューデント」「田園大学構想」・・・。渡邊准教授が提案する新時代の大学の可能性とは。(筆者/渡邊 隆彦、構成/鍋田 吉郎)

 これからの大学の変化には、(1)「リモート授業の拡充」と(2)「新しい形でのリアル・キャンパスの活用」という2つの大きな方向性があるのではないか――前回(第9回参照)は(1)についてさまざまな観点から掘り下げてみましたが、今回はその補足、「リモート授業の効率性がもたらすワナ」という話から始めたいと思います。

 インターネットは「効率性を徹底的に追求するツール」であるがゆえに、宿命的に「非効率なもの、無駄なもの」を生み出すことが苦手です。

 昨年、3人の友人と居酒屋で飲んでいた時、「そういえば、ガッパ(大巨獣ガッパ)ってのは日活だっけ、松竹だっけ?」という話題になりました。われわれのような「円谷特撮世代」も、ゴジラ=東宝、ガメラ=大映は覚えていても、ガッパ、ギララ、マタンゴあたりの“マイナーどころ”になると記憶は怪しくなります。

 日活だったかな? であれば、ガッパの哀切な鳴き声は、裕次郎(Wikipedia参照)ワールドからロマンポルノ路線に舵を切るときの「軋み」の音だったのかもしれない・・・。いや、松竹か? そういえば、ガッパの後ろ姿は、寅さん(Wikipedia参照)がおいちゃんと喧嘩して「とらや」を出ていくときの後ろ姿に似ているような・・・。

 酒に酔った私の頭脳が滑らかに回転し始めたその時です。友人の一人が、「ググったら、ガッパは日活(Wikipedia参照)だってさ。松竹は『宇宙大怪獣ギララ』(Wikipedia参照)だね」と“正解”をのたまいました。私らの世代でもいるんです、飲んでいる時でもスマホをいじり続けている奴が。もう台無しです。ガッパの話はこれでスパッと終わってしまい、話題は血糖値および尿酸値方面に移っていきました。

 誰も“正解”なんて欲しくなかったのです。こちとら映画でメシを喰っているわけでも、クイズ王を目指しているわけでもなく、ただただ「バカ話」をしたかっただけなのに。ガッパを起点に、裕ちゃんや寅さんを懐かしみながら、昭和の日本映画を巡る無駄話を皆で豊かに繰り広げたかったのに。スマホの馬鹿野郎!

 リアルな世界では、一見すると無駄に思えるものが、非効率な連鎖を引き起こし、それが思わぬ気づきや偶然の発見につながります。いわゆるセレンディピティです。ところが、オブジェクト指向で“正解”を効率的にサーチするネットの世界では、こういった「あそび」や「抜け」はなかなか発生しません。

人生にゆとりがあってこそ思索を深められる

 効率一辺倒のインターネットは、ガッパ帰属問題どころではない大きな問題を教育に投げかけています。小中学校の先生が「リモート授業では、パワポで教材を作って映すことによって板書の時間を省くことができ、効率的だった」と言っているのを何回か耳にしました。これはいけません。