中国国旗と習近平国家主席の写真を燃やすインド民衆。中印国境の係争地帯で軍が衝突、インド人兵士に多数の犠牲が出たことに対する抗議。中国の膨張主義はさまざまな摩擦を生み出している(写真:ロイター/アフロ)

(岩田太郎:在米ジャーナリスト)

※「中国切腹日本介錯論」(1)「『大日本帝国』と同じ轍を踏む習近平と中国共産党」、(2)「中国が先制攻撃を仕掛ける可能性が高いワケ」、(3)仮面を捨てた中国、世界を自分色に染めるそのやり方も併せてお読みください。

戦中から指摘された共栄圏「失敗の本質」

 中国共産党が熱心に学び、「中国夢」や「中華民族の偉大な復興」のビジョンの参考にする大東亜共栄圏構想は、壊滅的な日本の敗戦で失敗に終わった。だが、開戦間もない頃から、共栄圏の構造的な欠陥が一部の識者によってすでに指摘されていた。

 ケインズ経済学の立場から『東洋経済新報』の石橋湛山らとともに緊縮財政に反対してリフレ政策を唱え、後に転向の上で軍部に接近、日本の排他的な経済ブロックを建設することを強く主張した経済評論家の山崎靖純(せいじゅん)は、近衛文麿の私的政策研究団体である昭和研究会の常任委員であった。

 その山崎が、緒戦連勝の余韻が残る昭和17年(1942年)半ばに「大東亜建設に就て反省すべき諸点(特に現地において痛感するもの)」と題した大東亜省設置に関する内部文書(外務省外交史料館蔵)で、以下のように述べている。

「新しい人倫協同の“関係”を成立せしめることが何よりも最大の利益なりと云ふ明確な認識を欠ける為に(中略)現地の生産活動は甚しく妨げられ、住民は生活希望を失つて自棄状態となり、日本の労働生産力を不必要に現地に奪はれ、大東亜全体の労働生産を甚しく低下せしめ、住民をして日本指導の新秩序を甚しく誤解せしめる結果を伴つて居る」

 山崎はここで早くも、大東亜戦争の「失敗の本質」を見抜いている。すなわち、日本が大東亜共栄圏内の住民の人心掌握に失敗し、その結果として圏内各国との協働体制を築けず、人々の希望を失わせ、所期の経済目標を達成できないことで日本によるアジア新秩序建設に疑念を抱かせているということだ。

 大東亜住民と帝国の関係における不成功は、国力を数十倍も上回る米国に日本が無謀な戦争を仕掛けたという表面上の「失敗の本質」よりも、はるかに深刻なしくじりである。なぜなら、たとえ米国に力で押されても、共栄圏内の住民が日本の行動を心から受容して歓迎しておれば、米国は真の意味で日本に勝利できなかったからだ。実際には、ほとんどの地域において日本人は「侵略者」と見なされ、その結果、日本を破った米国が「解放者」と見られるようになった。

 この「心の戦い(心理戦・政治戦)に負ける」という共栄圏の構造的な欠陥は、中国共産党が推し進める「中国夢」や「中華民族の偉大な復興」にも顕在化し始めており、この先に悪化の一途を辿るだろう。

 この稿では一次史料を活用し、日本人にとっては極めて耳の痛い大東亜共栄圏の失敗の実例に迫る。そして、次回にはそれらの失敗と「一帯一路」「中華民族の偉大な復興」を対比させ、「中国夢の失敗」という歴史の必然性を論じ、共栄圏における失敗に学ぶことで、覇権的に膨張する中国の切腹(自滅)を日本が介錯する役割を果たせることを示す。