(城郭・戦国史研究家:西股 総生)
城は「名城」だけではない
城に興味があって、城歩きをしたいのだけれど、いまは自由な旅行がむつかしい・・・そんな悩みをお持ちの方、いませんか?
城に興味をもった人は、まず日本の代表的な名城を歩いてみましょう ——— これまで、城の入門書や、ビギナーさん向けの講座では、そのような城めぐりがすすめられてきました。テレビ番組でも、城好きの有名人が登場して、日本各地の名城を紹介します。すばらしいですよ、ぜひ行ってみましょう、みたいに。
そうして、もっとも代表的な名城を100か所くらい回ったら、次点クラスの名城を100か所。あるいは、ネット上で城マニアから、「すごい」「すばらしい」と評判な城を次々と・・・。という具合に、城歩きの世界にハマってゆくのが、お決まりのコースでした。
名城や評判の城をめぐって歩くとなると、日本中を旅行して回ることになります。でも、いまはコロナ禍のまっ最中。それは、無理。しかも、この状況は、まだしばらく続きそうです。ならば、城歩きがしたい人は、どうすればよいのでしょう?
考え方を、変えてみましょう。城に興味をもったら、全国の名城めぐりからはじめなければならない、などという決まりはどこにもありません。まず名城から順番に、という固定観念を捨てればよいだけのこと。
まずは、手近な城へ行ってみませんか? あなたの住む都道府県には、何かしら城があるはず。でしたら、そこへ行ってみましょう。状況が好転したら、少しずつ近隣の県へ出かけるようにすれば、よいのです。そうして、いずれ自由に旅行ができるようになるまでに、城を見る目、城を楽しむマインドを、しっかり養っておきましょう。
もう数を競わない
もうひとつ、with コロナ時代の城歩きとして、僕がおすすめしたいのは、数を競わないことです。城が大好きな人たちは、どうも、行った城の数を競いたがる傾向があります。
城マニアの飲み会に出席すると、「今まで行った城の数は250です」などと、自己紹介します。僕は長年、専門家として城の研究を続けてきましたから、軽く2000以上、たぶん3000近くは行っていますが、そう自己紹介するとたいがい、尊敬のまなざしで見られます。まるで、行った城の数が多い人ほどエラい、というカーストがあるようです。
城歩きが面白くなってくると、城は千差万別であることがわかってきます。ひとつひとつの城は、すべて他の城と異なっていて、無限の個性と出会えることが、城歩きの楽しみであると、僕も思います。その意味では、もっといろいろな城を見たい、歩きたい、という気持ちがわき上がることは、理解できます。
でも、よく考えてみると、日本全国には、4~5万もの城があるのです。一人の人間が、その全部を一生の間に回るのは、どだい無理。だとしたら、500だろうが3000だろうが、所詮は五十歩百歩ではないでしょうか。
それに、たくさんの城へ行くことと、城を理解することとは、イコールではないはずです。いくらたくさんの城を歩いたとしても、大切なことを理解できていなかったとしたら、空しくないですか? どのみち、すべての城を歩くことなど、できないのですから。
名城にこだわらずとも、数を競わずとも、城歩きを楽しむ方法は、あるはずです。(後編につづく)
●西股総生『1からわかる日本の城』10月30日発売決定!
JBpressで連載していた「教養として役立つ『日本の城』」に加筆を加えた書籍が発売となります。城のことはよく知らないのだけれど、ちょっと気になる。どこをどう見たら面白いのか、よくわからない。そんなはじめて城に興味を持った人や、もっとよく知りたい人へ、城の面白さや、城歩きの楽しさをお伝えします。
・遠くの名城より近所の城が面白い
・「石垣」「堀」「櫓」を1日中眺める
・最強の戦闘施設としてみる「天守」
・何もない「城跡」は妄想で楽しむ
・専門家しか知らない城の撮り方…etc
発売日:10月30日(金) 発行:JBpress 発売:ワニブックス
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