震災からの復旧が進む熊本城 撮影/西股 総生(以下同)

(城郭・戦国史研究家:西股 総生)

城は「名城」だけではない

 城に興味があって、城歩きをしたいのだけれど、いまは自由な旅行がむつかしい・・・そんな悩みをお持ちの方、いませんか?

 城に興味をもった人は、まず日本の代表的な名城を歩いてみましょう ——— これまで、城の入門書や、ビギナーさん向けの講座では、そのような城めぐりがすすめられてきました。テレビ番組でも、城好きの有名人が登場して、日本各地の名城を紹介します。すばらしいですよ、ぜひ行ってみましょう、みたいに。

写真1:弘前城。現在、石垣修復にともなって、天守が移動されている。本丸の真ん中にポコンと天守が建っている不思議な情景を見られるのは今だけ。とはいえ、観光旅行で弘前を訪れるのは、かなりためらわれる状況だ。

 そうして、もっとも代表的な名城を100か所くらい回ったら、次点クラスの名城を100か所。あるいは、ネット上で城マニアから、「すごい」「すばらしい」と評判な城を次々と・・・。という具合に、城歩きの世界にハマってゆくのが、お決まりのコースでした。

写真2:姫路城は日本人なら誰でも知っている超名城。城に興味をもったなら一度は訪ねてみたいが、別に逃げはしないので、慌てなくても大丈夫。

 名城や評判の城をめぐって歩くとなると、日本中を旅行して回ることになります。でも、いまはコロナ禍のまっ最中。それは、無理。しかも、この状況は、まだしばらく続きそうです。ならば、城歩きがしたい人は、どうすればよいのでしょう? 

写真3:彦根城から見た佐和山城。佐和山城は石田三成の居城として、戦国史ファンには有名。彦根城へ行ったら、次は佐和山城へ行きたくなる人も多いだろうが・・・。

 考え方を、変えてみましょう。城に興味をもったら、全国の名城めぐりからはじめなければならない、などという決まりはどこにもありません。まず名城から順番に、という固定観念を捨てればよいだけのこと。

 まずは、手近な城へ行ってみませんか? あなたの住む都道府県には、何かしら城があるはず。でしたら、そこへ行ってみましょう。状況が好転したら、少しずつ近隣の県へ出かけるようにすれば、よいのです。そうして、いずれ自由に旅行ができるようになるまでに、城を見る目、城を楽しむマインドを、しっかり養っておきましょう。

もう数を競わない

写真4:城を歩きながら描いた図(縄張り図という)を資料として研究を組み立てるのが、僕の専門。研究のためなら、どんなマイナーな城でも踏査する。

 もうひとつ、with コロナ時代の城歩きとして、僕がおすすめしたいのは、数を競わないことです。城が大好きな人たちは、どうも、行った城の数を競いたがる傾向があります。

 城マニアの飲み会に出席すると、「今まで行った城の数は250です」などと、自己紹介します。僕は長年、専門家として城の研究を続けてきましたから、軽く2000以上、たぶん3000近くは行っていますが、そう自己紹介するとたいがい、尊敬のまなざしで見られます。まるで、行った城の数が多い人ほどエラい、というカーストがあるようです。

 城歩きが面白くなってくると、城は千差万別であることがわかってきます。ひとつひとつの城は、すべて他の城と異なっていて、無限の個性と出会えることが、城歩きの楽しみであると、僕も思います。その意味では、もっといろいろな城を見たい、歩きたい、という気持ちがわき上がることは、理解できます。

 でも、よく考えてみると、日本全国には、4~5万もの城があるのです。一人の人間が、その全部を一生の間に回るのは、どだい無理。だとしたら、500だろうが3000だろうが、所詮は五十歩百歩ではないでしょうか。

写真5:東京都民なら、まず江戸城へ行ってみよう。日本最大の天守台をはじめとして見どころは満載。

 それに、たくさんの城へ行くことと、城を理解することとは、イコールではないはずです。いくらたくさんの城を歩いたとしても、大切なことを理解できていなかったとしたら、空しくないですか? どのみち、すべての城を歩くことなど、できないのですから。

 名城にこだわらずとも、数を競わずとも、城歩きを楽しむ方法は、あるはずです。(後編につづく)

●西股総生『1からわかる日本の城』10月30日発売決定!

 JBpressで連載していた「教養として役立つ『日本の城』」に加筆を加えた書籍が発売となります。城のことはよく知らないのだけれど、ちょっと気になる。どこをどう見たら面白いのか、よくわからない。そんなはじめて城に興味を持った人や、もっとよく知りたい人へ、城の面白さや、城歩きの楽しさをお伝えします。

・遠くの名城より近所の城が面白い
・「石垣」「堀」「櫓」を1日中眺める
・最強の戦闘施設としてみる「天守」
・何もない「城跡」は妄想で楽しむ
・専門家しか知らない城の撮り方…etc

発売日:10月30日(金) 発行:JBpress 発売:ワニブックス
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