(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)
今の米中対決をとらえて、“新冷戦”ということがよく言われている。だが私は、現在の米中対決を“新冷戦”と簡単に定義することには、同意できない。
そもそも冷戦とはどういうものだったか
軍事力を使った戦争を“熱い戦争”と見立て、軍事力を直接使用はしないが、資本主義・自由主義陣営と社会主義・共産主義陣営が激しく対立する体制のことを“冷戦”と呼んだ。要は、体制対決のことであった。
そこには明確なイデオロギー(思想)の対決があったことが、その大きな特徴であった。戦後、ヨシフ・スターリン率いるソ連は、ルーマニア、ハンガリー、ブルガリアなど、東欧諸国にソ連軍を進駐させ、共産党を中心にした社会主義政権を次々と誕生させていった。
これに対抗して、アメリカは「反共・封じ込め政策」を進め、ヨーロッパでのソ連の影響力の拡大を防ぐため、マーシャル・プラン(ヨーロッパ復興計画)などによって、ヨーロッパ諸国への大規模な経済支援を行なっていった。この時期、英国首相を退任したウインストン・チャーチルがアメリカの大学で講演を行ない次のように語った。「バルト海のシュテッティンからアドリア海のトリエステまで、ヨーロッパ大陸を横切る鉄のカーテンが降ろされた。中部ヨーロッパおよび東ヨーロッパの歴史ある首都は、全てその向こうにある」(1946年3月)。有名な「鉄のカーテン」演説である。