G20大阪サミット会場で握手をかわすトランプ米大統領と中国の習近平国家主席(2019年6月29日、写真:ロイター/アフロ)

(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

 今の米中対決をとらえて、“新冷戦”ということがよく言われている。だが私は、現在の米中対決を“新冷戦”と簡単に定義することには、同意できない。

そもそも冷戦とはどういうものだったか

 軍事力を使った戦争を“熱い戦争”と見立て、軍事力を直接使用はしないが、資本主義・自由主義陣営と社会主義・共産主義陣営が激しく対立する体制のことを“冷戦”と呼んだ。要は、体制対決のことであった。

 そこには明確なイデオロギー(思想)の対決があったことが、その大きな特徴であった。戦後、ヨシフ・スターリン率いるソ連は、ルーマニア、ハンガリー、ブルガリアなど、東欧諸国にソ連軍を進駐させ、共産党を中心にした社会主義政権を次々と誕生させていった。

 これに対抗して、アメリカは「反共・封じ込め政策」を進め、ヨーロッパでのソ連の影響力の拡大を防ぐため、マーシャル・プラン(ヨーロッパ復興計画)などによって、ヨーロッパ諸国への大規模な経済支援を行なっていった。この時期、英国首相を退任したウインストン・チャーチルがアメリカの大学で講演を行ない次のように語った。「バルト海のシュテッティンからアドリア海のトリエステまで、ヨーロッパ大陸を横切る鉄のカーテンが降ろされた。中部ヨーロッパおよび東ヨーロッパの歴史ある首都は、全てその向こうにある」(1946年3月)。有名な「鉄のカーテン」演説である。