国を挙げてEV普及を推し進めたけれど
大気汚染や土壌汚染などの環境汚染に直面する中国。今後は新たな環境問題に直面するかもしれない。
2012年6月28日、中国国務院は「省エネと新エネルギー自動車産業育成計画(2012~2020 年)」なる計画を策定し、「新能源」と呼ばれる電気自動車(EV)群に対する支援政策を打ち出し始めた。それから3年後の2015年5月、国務院は「中国製造2025」を打ち出し、5カ月後には「電気自動車充電インフラの建設を加速するためのガイダンス」を発表した。ガイダンスでは、「2020年までに500万台の電気自動車の充電需要を満たす」よう求めていた。
こういった国の方針をベースに、EVの購入者に最大6万元(およそ90万円)前後の補助金が支給されるなど、中国では電気自動車向けの手厚い補助制度が拡充された。今年4月、EV向けの補助金は少なくとも2022年まで続くことが決まった。
その結果、2012年では年間1万台程度だった中国のEV販売台数は、2019年の1年間で約97万台の販売を記録するまでになった。2019年は2018年との比較で1.3%減と、過去10年で初めての下落だったが、それでも相当な数である。
EVバブルに沸く人にしても、EVバブルの崩壊に恐怖する人にしても、それぞれの思惑はあるだろうが、筆者としては中国の同胞がどんな形であれ「家」と「車」を手に入れて喜んでいるというのであれば悪い気はしない。ただ、経済の起伏とは別のところで、積もりに積もった「EVの山」が文字通り、本土で炸裂する「火薬庫」になるかもしれないと思うと、それは気がかりである。
ご存じの通り、電気自動車は電気で動き、電池が電気を蓄える。リチウムイオン電池の発明でノーベル賞の栄誉を受けた吉野彰教授が記憶に新しいところだろう。そして、車であろうがスマホであろうが、電池は劣化するということも、何ら疑うことはない周知の事実だ。
それでは、EV用の動力バッテリーはどんな一生を辿るのであろうか。
動力バッテリーは、車体に取りつけられたその日から全体の容量が落ち始め、どこかのタイミングで「寿命」を迎える。充電しても満タンにならず、全体の容量が70%を下回ると、車載用バッテリーとしては「ご臨終」だと考えられている。そうなれば、EVで使用することはできず、バッテリーは「リユース・リサイクル」の段階へ移る。
中国は第一次EVブームの集団退役期に突入
日本の場合、自動車メーカーがそれぞれ回収システムを構築している。販売店や解体業者で回収された廃バッテリーはメーカーの施設を経由してリサイクル施設に運び込まれる。そこでテストをした後、リユースなりリサイクルなり、適切な処理がされる。廃バッテリーとはいえある程度の容量が残っているとも考えられるので、家庭用なり発電所なりの蓄電施設で再度使用することが可能である。
例えば、日産のホームページを参照すれば、このような文書が掲載されている。「日産は、持続可能な社会の実現と資源循環の促進のため、当社が販売する電気自動車及びハイブリッド車のリチウムイオンバッテリーを回収し、リサイクルを行っています。」
一般的に、EV向けバッテリーの容量が70%を下回るまでの期間は6~10年程度と言われている。2012年以降、中国が政策的にEVを普及させてきたという過去を踏まえれば、中国における第一次EVブームで増えたバッテリーは、既に「集団退役」のタイミングに入っている。事実、2020年に定年を迎えるバッテリーは約20万トン。2025年には78万トンに達する見込みだ。
それでは、中国の回収システムはどうなっているのだろうか。