テスラの上海工場で製造した「モデル3」の 納車開始セレモニーでスピーチするイーロン・マスクCEO(2020年1月7日、写真:AP/アフロ)

(花園 祐:上海在住ジャーナリスト)

 中国汽車工業協会の発表によると、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るった2020年第1四半期(1~3月)における中国国内の自動車販売台数は、前年同期比42.4%減の367.2万台でした。市場全体で販売台数が大きく減少し、自動車各社は売上げが大きく落ちこみました。

 一方、昨年(2019年)末に上海工場を稼働させたばかりの電気自動車(EV)世界大手のテスラモーターズは、3月の月間販売台数が早くも1万台を超え、大きな話題となっています。

 今回は、こうした中国自動車市場の2020年第1四半期の動向について、各種データとともにご紹介します。

2月は前年比79.1%減の落ち込み

 市場全体の月間販売台数推移を見ていくと、1月が前年同月比18.6%減、2月が同79.1%減、3月が43.3%減となりました。防疫対策として外出を含む各種活動が厳しく制限された2月の落ち込みが最も大きくなっています。

2019年4月~2020年3月の中国における月次自動車販売台数推移

 そうした規制が緩和された翌3月も4割超の減少となっていますが、市場関係者の間では回復ペースは予想より早いとの見方が出ています。一部からは、5月ごろには平年のペースに戻るだろうとの声も聞かれます。

 ただ、中国自動車市場は2018年、2019年と2年連続で縮小を続けています(2019年の年間販売台数は前年比8.2%減の約2577万台でした)。今のところ市場は明らかなダウントレンドにあり、平年のペースに戻ったとしても一定度の落ち込みは続くとみられます。

 上記状況を勘案する限り、「『2000万台』という年間販売台数を維持できるか」が1つの目安となるでしょう。2000万台を維持するためには、落ち込み幅を通年で22.4%以内に抑える必要があります。当面はこの数字を超えるかが焦点となってくるでしょう。

2020年1~3月の中国における車形別自動車販売台数

落ち込み幅が少なかった高級車

 続いてメーカー別の販売台数を見ていきましょう。

2020年1~3月の中国におけるメーカー別乗用車(狭義)総合販売台数

 上表の通り、今期は市場全体の落ち込みから、販売台数上位15社のメーカーはもれなく2桁減を記録しました。このうち落ち込み幅が最も低かったのはトヨタ系列の広汽豊田で、前年同期比13.4%減の12.8万台で8位につけています。

 そのほかの日系メーカーでは、日産系列の東風日産が同40.3%減の16.9万台(6位)、ホンダ系列の広汽本田が同35.6%減の11.6万台(9位)、トヨタ系列の一汽豊田が同29.3%減の11.1万台(11位)、ホンダ系列の東風本田が同31.5%減の10.6万台(14位)という順番となっています。各社の減少幅は市場全体の減少幅(4.24%減)よりも少なく、厳しい市況の中で比較的健闘したとみていいでしょう。

 一方、日系以外では北京奔馳(北京ベンツ)が同18.5%減の11.3万台で、順位を10位にまで高めています。販売台数こそ減少しているものの、大衆車と比べると高級車は今回の新型コロナウイルス感染拡大の販売への影響は小さいようです。ここにきて、高級車全体が急速に順位を高めてきました。

 ベンツの躍進を実際に裏付けるように、同期におけるセダンの車種別販売台数では、これまで上位15位圏外であったベンツの「Eクラス」(3.2万台)、「Cクラス」(3.0万台)がそれぞれ10位、13位にランクインしました。15位に入ったアウディ「A4」の販売台数も前年同期比5.4%減の2.9万台と落ち込み幅は小さく、市場が冷え込む中で、高級車の根強い人気を示す結果となっています。

2020年1~3月の中国におけるセダン販売台数順位

テスラ「モデル3」が月間首位に

 全体の販売台数同様、同期の新エネルギー車販売台数も前年同期比56.4%減の11.4万台と大きく落ち込みました。

2020年3月の中国における新エネルギー車販売台数順位

 ただ3月における新エネルギー車の車種別月間販売台数では、米テスラモーターズのEV「モデル3」が1万160台で首位につけ、業界内外で大きな注目を集めました。モデル3の販売台数は2位のBYD「秦EV」(5066台)の倍近くに達し、なおかつ同月の高級車カテゴリーにおいても最も売れた車となっています。

 テスラモーターズは昨年末に上海工場を稼働させたばかりですが、国産化開始からわずか数カ月で月販1万台を突破しました。これまでも「テスラ」ブランドは、その航続距離の長さなどから中国で人気がありましたが、国産化によって価格を下げたことが販売台数を大きく押し上げたのは間違いないでしょう。

 こうした中国市場での好調を背景に、テスラモーターズは今年4月から、国産版「モデル3」の後輪駆動・ロングレンジモデルの予約受付を開始しました。新モデルの連続航続距離は668kmに達します。メーカー希望小売価格は、政府の購入奨励補助を受けた消費者の実際支払負担額で約33.9万元(約515万円)としています。2019年における同車種の輸入車価格は約42.1万元(約640万円)でしたから、国産化によって日本円で100万円超も価格が引き下げられた計算となります。

 もっとも中国メディアの間では、テスラのこうした価格設定に対して「既存ユーザーに対する信頼を損なう恐れがある」との批判があります。つまり「2019年に輸入車版を購入していたユーザーの損失は計り知れない」というわけです。

EVの高級化に拍車をかけるか

「モデル3」の短期間での成功は業界内でも大きな注目を集めており、今後の新エネルギー車市場の潮流を大きく変えるのではないかとの見方も出ています。

 これまで中国市場を牽引していたのは、主に中国系メーカーの、航続距離よりも価格を抑えたEVが中心でした。しかし今回、価格設定こそ高めであるものの、EVとしては長大な航続距離を有する「モデル3」の売れ行きが好調なことから、今後、EVは準高級車としてのカテゴリーが主流になるのではないかという予測が出ています。折しもベンツ、アウディ、BMWの独系高級車ブランドも、中国市場におけるEV投入の計画を進めています。筆者も、今後、EVは価格よりも航続距離とブランド力が販売に強く影響してくるのではないかと考えています。

 とはいえ、新型コロナウイルスの影響で自動車市場は不安定な状態となっており、先行きの予測はきわめて困難な状況です。こうした不安定な時代だからこそ、自動車各社は市場の小さな動きに注意して重要な動きを見逃さない姿勢が求められるでしょう。