(加谷 珪一:経済評論家)
新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、マスクや防御用ガウン、人工呼吸器、アルコールといった資材の不足が深刻化している。一部からは、海外に依存してきたツケであるとして、国内生産に回帰すべきとの意見が出ている。実際、ドイツでは自国優先という観点から、国内生産した医療用器具の輸出制限に乗り出している(批判を受けて一部解除)。
国内生産を強化すべきという意見はまさに正論であり、安全保障上、こうした物資については必要に応じて国内で調達できるようにしておく方が望ましい。だが、現実はそう簡単ではない。
日本が多くの製品を海外に依存してきたことの背景には、国内経済の慢性的な低収益構造があり、ここに手を付けなければ、「国内回帰せよ!」と声高に叫んだところで問題は解決しない。今回のコロナ危機は、日本社会が見て見ぬフリをしてきた不都合な真実を露呈したともいえるだろう。
一向に解消しないマスク不足
新型コロナウイルスの感染拡大が本格化してきた2020年2月以降、全国的にマスクが手に入らないという状況が続いている。ドラッグストアなどの店舗ではほとんどが品切れとなっており、希に入荷してもすぐに売り切れてしまう状況で、数少ないマスクを求めて、開店前から長蛇の列になっているところも多い。
こうした事態を受けて菅官房長官は2月12日、週あたり1億枚を提供できる見通しを示したが、翌週には日本製紙連合会が「増産対応が追いつかず、当面は品薄状態が続く」と政府見解を真っ向から否定。菅氏は再びマスクについて言及し「3月からは月産6億枚の供給が可能になる」と説明したものの、マスク不足は一向に解消されていない。