質の良い睡眠につながる生活習慣

 睡眠をコントロールしているもう一つのシステムは、体の状態をある一定に保とうとする「ホメオスタシス」という機能です。

 たとえば、前日が睡眠不足だった場合に、いつもより早く眠くなったり、眠りが深くなったりして、帳尻を合わせようという仕組みです。

 しかし、ホメオスタシスではなく、もう一つ体内時計があるという説もあり、睡眠の詳細なメカニズムについては、実は専門家の間でも意見が分かれています。

 ここでは、まず大きな流れとして体内時計があり、付随するいくつかの要素があって睡眠は成り立っている、という理解で結構です。

 脳科学はひと頃よりは大いに解明が進んだといえ、まだまだ分からないことが山のように残っています。

 しかし、専門家はさておき、私たち一般の人にとっては、実はそれは大した問題ではありません。

 一般の人にとって大切なのは、どうインプットすれば、どうアウトプットされるかということにつきるからです。

 今回の睡眠の場合には、どのような生活習慣(インプット)が質の良い睡眠(アウトプット)につながるのかということです。

 その過程は、別にブラックボックスでも構いません。

 たとえば、「笑顔を作って脳内物質であるセロトニンを出し、幸せになろう!」といった記事を時々見かけます。

 これはこれで事実の可能性もあり、もちろん構わないのですが、本当にセロトニンが出ているのか、はたまた実はドーパミンなのかなどは、あまり本質的な事柄ではないはずです。

 大事なことは、笑顔を作ったら(インプット)、幸せになるかどうか(アウトプット)だからです。

 このことは、脳科学全般に当てはまることだと思います。

体内時計をリセットする社会的制約

 さて、体内時計の話に戻ります。

 体内時計の周期は人によって違うのですが、ほとんどの人は「24時間より長い」と考えられています。

 以前は1日25時間というのが定説でしたが、現在では、おおむね24時間10~20分の間に入ると報告されています。

 ということは、人体にとっては本来24時間10~20分で1日なので、何もなければ生活リズムは少しずつずれていくはずです。

 しかし、多くの人は地球の自転である24時間周期に合わせて生きています。

 つまり、どこかで体内時計を毎日リセットする仕組みがあるのです。

 その仕組みの一つは「社会的な制約」です。たいていの場合、仕事や学校の始業時間は決まっているので、それに合わせて起床し、食事をし、通勤・通学をします。

 その強制力があるから、1日24時間のサイクルを保つことができるのです。

 しかし、このコロナ騒動の中、非常に多くの人がリモートワークを余儀なくされています。

 その結果、1日24時間のサイクルを保つための社会的な制約が緩んでしまっていて、生活リズムを崩す人が続出しています。

 学生時代の夏休みを思い出してみてください。学校があった時よりも、朝の起きる時間はどんどん遅くなっていきませんでしたか?

 親に怒られて起きださない限り、ベッドから出るのが億劫だったのではないでしょうか?

 それと同じ現象が、いま起きているのです。

リモートワークで放棄される社会性

 ここでもしかすると、「いや、私はそれでも構わない」という人もいるかもしれません。

 確かに極端な話をすれば、独身のクリエイターなどで、たとえ毎日20分ずつずれていって、72日(3日×24)かけて元に戻るというサイクルになったとしても、大きな弊害のない可能性はあります。

 このように、体内時計のリズムそのままに過ごすことを、専門用語で「フリーラン(free-run)」と言います。

 多少、魅惑的な響きすら感じます。

 しかし、一般的な仕事をしていて、テレビ会議であったとしても他者とのコミュニケーションが定期的に必要である人、家族などの同居人がいる人であれば、やはり自由気ままにフリーランするわけにはいかないでしょう。

 同じ時間に情報や経験、感情を共有できなれば、生まれた齟齬が少しずつ積み重なっていき、社会的な生活を送るのが困難になっていく可能性が高いからです。

 リモートワークのメリットはたくさんありますが、「社会性を放棄できる」という項目は、基本的には入っていません。

 やはり、いくらかの努力を引き受けて、何時に起きるかはさておき、属するコミュニティの共通ルールとしての24時間サイクル自体は保たなければなりません。

 そのためには、体内時計を毎日きちんとリセットする必要があるのです。