しかし、日本社会はヤクザに反社というレッテルを貼り、社会的に排除することで、ヤクザを暴力団にしてしまった。シノギを奪われ、糧道を断たれた暴力団が、昭和の牧歌的な時代のヤクザに戻る日はないだろう。

 そうであるなら、日本社会は、他者に無関心な社会、自分ファーストの意識を見直す転機を迎えているのではないだろうか。地域社会の暮らしは、そこに生活する自分たちで共に守ること――コミュニティにおける「共助」の必要性に気づき、地域で生きるひとり一人が、安心・安全な社会の維持に努力しなくてはならないと考える。

コミュニティ・オーガニゼーションのススメ

 コミュニティ・オーガニゼーション(地域社会の組織化)とは、犯罪・非行の原因について、個人の負責を求める発想から、社会そのものの中に犯罪の要因を認める発想の転換に伴って起こってきた犯罪予防方法である。コミュニティ・オーガニゼーションの先進国であるアメリカでは、市民の意識と地域活動の展開こそが犯罪の増加を阻み、予防効果をあげる方法として強調されている。

 残念なことに、我が国では、現在までのところ、犯罪・非行防止対策としてのコミュニティ・オーガニゼーション活動は、それほど成果を収めていないといわれる。

 その理由には様々なものが含まれるが、大きな理由としては、それらの多くが、お上の行政指導型であり、地域住民のニーズ、積極性、創意性が汲み上げられていないことが挙げられる。

 しかし、お上に頼った結果がどうであったか。我々は社会的孤立を経験し、DV、児童虐待、孤独死、いじめ、そして特殊詐欺など様々な社会病理に直面することとなった。

 現代社会は、個人が他者から切り離され、私的な生活に閉じこもることで公共精神が蝕まれる危険に直面している。コロナの非常事態が長引けば、それだけ様々な社会病理は醸成される。そして、コロナが収束した後、我々は否応なくコロナショックと対峙しなくてはならない。

 反社の犯罪は、人間関係の希薄化や社会的孤立を利用した。同じ轍を踏まないためにも、いま、出来ることから対策を講じないといけない。

「隗より始めよ」という故事成語がある。いまさらだが、この諺は「大事業や大計画など、遠大なことを行うには、手近なことから着手しなさい」という意味だ。社会的な孤立の種子は、あなたの家庭や近隣社会にあるかもしれない。

 コミュニティ・オーガニゼーションの土壌を形作るためにも、まずは、身近な人間関係の希薄化に気づき、他者への無関心や社会的孤立の芽を摘むことから始めてみてはいかがだろうか。スマホに依らない家族とのリアルな対話、ご近所さんとの挨拶や会話に努めることが、反社を増殖させない、社会的弱者が被害に遭わない社会基盤を構築すると考える。

 現在推奨されているソーシャル・ディスタンス(物理的な社会的距離)が、人間関係の定番になることなく、コロナ有事の期間限定でお願いしたいものだ。コロナ収束後は、日本人が礼儀として意識してきた「適度な社会的な間合い」に戻ることを願うばかりである。