積水ハウスに対し株主提案する同社前会長の和田勇氏らが開いた記者会見(筆者撮影)

 積水ハウスの株主総会に向けて和田勇・前会長と勝呂文康・取締役専務執行役員が会社の取締役を一掃し、11名の候補者の選任を求める株主提案を行ったことが話題になっている。その社外取締役候補の中に、少々異色の経歴を持つ女性がいる。

 加藤ひとみ氏――。高砂香料工業の法務・特許部長を経て14年に退任し、現在はコンサルタント会社を細々と経営している人物だ。

 積水ハウスは売上高2兆円を誇るハウスメーカーのリーディングカンパニーである。そんな輝かしい企業の社外取締役と言えば、上場企業の中でもトップを走る企業の現職や元職の経営者、あるいは著名な学者や弁護士などきらびやかな経歴の持ち主の指定席のはずだった。

 ところが加藤氏には上場企業の部長経験こそあれ役員の経験はない。現在は非上場企業の執行役員ではあるが、華やかさとは程遠い。しかも加藤氏は社外候補だけでなく、実は株主提案側の取締役会の議長候補でもある。なぜ和田氏や勝呂氏は彼女を意思決定機関のトップに就けようとしているのだろうか。

 実は加藤氏の持つ能力にその秘密があるのだが、それはいわば「経営トップの首に鈴をつける」という挑戦的なものだった。加藤氏、企業の不祥事の告発を受け付ける内部通報制度の専門家なのである。

「隠ぺい」体質を是正する

 今回、和田氏や勝呂氏が行った「株主提案」には一つ特徴的なことがある。それは「地面師事件の再調査」が公約されていることだ。

 17年6月に発覚した積水ハウスが約55億円を搾取された地面師事件は、その後、同社を著しい混乱に陥れた。

 現会長の阿部俊則氏に「重い責任がある」との調査結果がまとめられたが、阿部氏ら現経営陣は、“クーデター”を起こして当時会長だった和田氏を辞任に追い込んだ。さらに事件の経緯と自身の責任が厳しく問われている「調査報告書」の公表を現在も拒み続けている。