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新型ウイルス肺炎で会見するトランプ大統領(写真:AP/アフロ)

(文:春名幹男)

 世界で最も進んだ医学と医療技術・設備を備え、ノーベル医学生理学賞受賞者も最も多いアメリカが、「新型コロナウイルス」(COVID-19)の対策に苦慮し、事実上の「医療崩壊」状態に陥っている。

 実は米国のインテリジェンス機関は、中国湖北省武漢で新型ウイルスの感染発生が表面化した今年1~2月以降、「世界が危機に直面する」とドナルド・トランプ米大統領に繰り返し報告していた。

 しかし、「トランプ大統領も議会もその脅威を軽視し、感染拡大を抑える措置をとらなかった」(『ワシントン・ポスト』)。

トランプ支持率は上昇している

 その結果、全米の感染者数は3月5日の214人(米疾病対策センター=CDC)から爆発的な感染拡大で、約3週間で世界1位となり、4月初めに25万人を超えた。特に深刻なニューヨーク州は、仮設の病床設営と人工呼吸器の調達に躍起となっている。

 米外交誌『フォーリン・ポリシー』電子版はこの状況を「米国史上最悪のインテリジェンスの失敗」と伝え、ハーバード大学ケネディ・スクールのスティーブン・ウォルト教授(国際政治学)は「米国の能力の死」と形容するなど厳しく批判している。

 ところが、トランプ大統領の支持率は上昇して、高いレベルにあり、民主党の大統領候補指名がほぼ確実視されるジョー・バイデン前副大統領との差を縮めている。

 インテリジェンスが政治にないがしろにされただけではない。大統領に対する「忖度」で対策を先送りしてきた高官や、議会の秘密聴聞会で貴重な感染情報を得て、急ぎ所有株を売り、政策より資産の確保を優先した上院議員もいるなど、混乱の極みに達している。

 米国で一体、何が起きているのか。

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