もちろん沖縄が好きな人は心の中で賛成していたかもしれませんが、多くは「冗談じゃない。人生設計が全部狂っちゃうじゃないか」と強い拒否感を露わにしていたのです。

 そういうのを間近に見てきただけに、「首都機能を移転して景気浮揚だ」と言うのは簡単でも、さまざまな工夫をしながら進めていかないと、理想論を唱えただけで終わってしまうということも感じています。

 もう1つは、消費者庁の徳島移転のように、移転の文脈、省庁と移転先との親和性の問題もあります。

 そこで私なりにそれらを勘案し、どの省庁をどこに移すのが最適なのかを考えてみました。そこで得た結論は、環境省を前述の国会等移転で全国3か所の候補地の一つとして挙げられた、地盤がよく災害リスクの低い「栃木・福島地域」の那須に移すのが現実的、かつベストなのではないかという考えです。

「環境省の那須移転」がベストな理由

 なぜか。まずは環境省という役所の規模です。

 国会や巨大な官庁となると抵抗する人がたくさん出てきます。しかし環境省は1府12省庁の中でもっとも職員の数が少ない役所の一つです。東日本大震災後に外局となった原子力規制委員会(庁)を除けば特に少なく、その分、抵抗する人も少なくなります。

 また、ESG投資(環境・社会・ガバナンス投資)やSDGs(持続可能な開発目標)という流れが強くなる中で、環境行政への注目度は高まっています。それを司る役所を、那須という自然環境豊かな土地に移すということは、世界的に見ても象徴的な決断です。安倍政権のレガシーとしても十分に大きな意味を持つはずです。しかもたまたまですが、現在の環境大臣は、発信力の高い小泉進次郎さんです。「環境省の那須移転」は国民に向けても、そして世界に向けても、心理面で非常に大きいインパクトを与えることになるでしょう。

 では、なぜ那須が移転先としてベストなのか。

 私は環境省と那須地域とは、非常に親和性が高いと思っています。自然環境豊かな那須に環境行政を司る省庁を持っていくというのはシンボリックな意味も大きい。

 那須エリアは非常に風光明媚な場所で、明治期の元勲たちもこぞって屋敷を構えました。今でも青木周蔵や松方正義、大山巌らの別邸が那須塩原市に残っています。一番有名なのは天皇陛下の御用邸でしょう。那須塩原市には大正天皇の御用邸がありましたし、隣の那須町には、現在の御用邸があります。それほど那須の自然環境は素晴らしいのです。そういう意味では、環境省の那須移転は、環境行政で世界をリードしようという姿勢を世界に示せる絶好の機会となります。

 また、那須はそこで働く人々にとって、先進的で環境調和型のライフスタイルを提供することも可能です。

 住環境を見ても非常に良好です。那須は本州の中で生乳の出荷量がトップです。牛乳はもちろん、それを利用したチーズ作りも盛んですし、ワインも注目されています。また、もともとリゾート地として栄えている土地柄もあり、グレードの高い飲食店も豊富です。

 また温泉も有名で、「那須七湯」、「那須八湯」と言われるほど、源泉の数も豊富です。このように、住環境という点から見ても、那須は豊かな資産に富んでいる土地なのです。

 最近、「ワーケーション」という言葉が注目されています。これはワークとバケーションを組み合わせ出てきた言葉です。テレワークが社会に浸透しつつある現在、大都市ではなく、地方に住みながら、そこで働くことと、休むこと・遊ぶことがいいバランスで維持できるライフスタイルのことです。那須という東京から新幹線で70分の場所は、住んでも、通っても、ワーケーションが実現しやすい場所でもあります。

 環境省が那須に移転すれば、それに伴い企業の移転も促されます。そうするとここで仕事もし、休みになればすぐバケーションも楽しめる、というスマートで格好いいライフスタイルが生まれてくるのではないかと思うのです。

 もちろん移転先の都市整備は、環境省を皮切りに、できるだけグリーンフィールド型で進めます。つまり環境省の職員は、霞が関の古めかしいビルや合同庁舎から、最先端のテクノロジーを活用した、環境調和型のインテリジェンスビルで仕事をすることになる。都市全体がデジタル化されていますから、例えば煩雑な議事録作成や書類の処理などはAIやRPA(ロボティク・プロセス・オートメーション)が自動的にやってくれるようなことにもなるでしょう。もちろん仕事は可能な限りのペーパーレス。最先端のテクノロジーを駆使し、行政改革も一気に進めてしまうのです。日本の中で、環境省の職場環境が最高にいい、と言われるくらいの環境を作ってしまうのです。

 そしてこの首都機能の移転を起爆剤にして、那須周辺の地方創生も一気に進めます。環境テクノロジー関連の企業進出もあるでしょうし、飲食業やサービス業の進出も促します。

 また那須はエネルギーの宝庫でもあります。太陽光発電も盛んですし、酪農の牛の排泄物を使ったバイオマス発電にも取り組んでいます。川の水流を使った小水力発電も有名です。そうしたものの利用をさらに進めると、エネルギー先進都市になる可能性も見えてきます。

 環境省の移転を契機に、最先端のスマートシティをつくり、ワーケーションという新しいライフスタイルを提案し、エコロジカルなエネルギー利用の見本を示すこともできるようになります。もちろん、そこで暮らし、働く人々の満足度も非常に高い。誰もが憧れるような街をつくることが可能なのです。

 ともすると、これまでの首都機能移転というのは、「トカゲのしっぽ切り」みたいに、特殊法人や国立行政法人をさいたま新都心や川崎市などに移す程度のものが多く見受けられました。しかも、皆が忘れたころに、しれっとまた元に戻したりしてきた。いわはアリバイ作りのための首都機能移転でした。

 しかし、環境省を移すというのは、これらの移転とは意味合いは大きく変わってきます。本気の首都機能移転になりますから、日本人の働き方は地方創生に対する考え方を、大きく刺激する契機になるはずです。