その優先順位は当然のことながら「人民の命」よりも金正恩氏の「プライベートな命」の方がはるかに重要なのである。

 それは、父の金正日が祖父・金日成の死亡直後の混乱期に、自らの王位継承を優先し、300万人とも言われる人民を餓死させた事実が何よりの証拠ではないか。

 2月1日付の朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は社説で「人民の生命安全をしっかり守るのは朝鮮労働党と国家の最優先の重大事である。(中略)我が国ではたった一人の被害者も出ないようにして、人民の生命の安全が最優先される体制が整っている」などと強調しているが、これは完全な欺瞞だと筆者は思う。

 人間にとって最も大事なのは命である。歴史を見れば分かる通り、独裁者が最後に願うのは「不老長寿」だ。

 金日成も例外ではなく、この悲願達成のため1976年に『基礎医学研究所』(金日成長寿研究所)を設立し、全国から優秀な人材を集め、金に糸目をつけない奇妙な健康法に明け暮れた。

 金正恩氏はまだ若いが、長寿(命)についてのこだわりは祖父と変わるところはないだろう。

究極のセキュリティは粛清

 金正恩氏のみならず、金王朝3代にわたって、「王様」の命を守ることには病的・偏執狂的なほどの執念を見せた。

 金王朝を支えるのは軍であるが、特別に「王様」の身辺警護や首都である平壌直轄市の防衛を主管するために護衛司令部(兵力は9万5000~12万人)と呼ばれる親衛隊組織を設けている。

 また、軍内にはクーデターの陰謀を監視するために総政治局を置いているほか、国家保衛省(秘密警察・情報機関)が津々浦々に配備した監視網で、全人民を対象に目を光らせている。

 それに加え、金王朝3代は、影武者までも使っていると言われる。

 金王朝3代は、自分に弓を引く可能性がある者は容赦なく粛清してきた。それゆえ「粛清の王朝」とまで言われている。

 金正恩氏の場合は、叔母・金敬姫の夫で権力の後見人でもあった張成沢氏を国家転覆陰謀のかどで粛正した(2013年12月)のに続き、腹違いの兄・金正男氏をマレーシアのクアラルンプール国際空港で顔面に神経剤「VX」を塗布して殺害させた(2017年2月)。