韓国・ソウルを走る地下鉄の車両内(2020年2月27日、写真:Lee Jae-Won/アフロ)

(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)

 ソウルの街が閑散としている。

 私が住んでいるところは、ソウルの南端にある住宅街だ。都心での仕事を終えた会社員たちが酒をあおってくだを巻く飲み屋街があって、その一角には中高年をターゲットとしたナイトクラブがネオンをギラギラさせている。ところが先週あたりから、昼夜を問わず、人影がずいぶんと薄い。

 つい最近(2月25日)、昼食をとりに自宅近くにある食堂に行った。1人4000ウォン(約360円)あれば腹いっぱいになる上に料理は全部手作りで、これが旨い。普段なら並んで待って店に入るのだが、空席があってすぐに入れた。店主に聞いたところ、やっぱり新型コロナウイルスの感染者が爆発的に増え出してからは客足が鈍くなって、この日はざっと普段の半分くらいだという。

 その日の午後は久しぶりに、江南にある行きつけのカフェに顔を出してみた。最近韓国ではフランスのお菓子であるカヌレが静かな人気を呼んでいて、そのカフェもカヌレが売りだ。普段なら午後2時半を過ぎると席がいっぱいになって入れない人も続出する。特に2月の後半は新学期を間近に控え、冬休みの最後を楽しむ大学生たちで賑わうはずなのだが、4時を過ぎても空席が目立つ。ここもやはり新型コロナの影響だとか。私が、今年の秋に出す予定の本の原稿を構成していたところ、オーナーは手持無沙汰なのか、薫り高い紅茶をサービスしてくれた。

政府は対策に全力を挙げていたが・・・

 韓国では2月中旬までは感染者数が抑えられていた。だが、2月19日に20人増えたと報じられると、翌20日には53人が新たに確認され、それ以降あれよあれよという間に増えている。

 そんな風になる前から、韓国政府は国民一人ひとりに対策を促していた。手を洗い、消毒剤で消毒をするよう勧告し、また、マスクの着用も訴えていた。