2月23日、政府ソウル庁舎で開かれた政府対策会議での文在寅大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(崔 碩栄:ノンフィクション・ライター)

 韓国の新型コロナウイルス感染者数の急増が止まらない。2月18日時点で31名とされていたのがわずか2日後の2月20日には100名を超え、そのさらに5日後には900名を超えた。「爆増」とでもいうべき勢いだ。死亡者についても19日に初の死亡者が確認されて以降、6日の間に10名が亡くなった。まさに国家非常事態だ。

 感染者数が中国に次いで2番目に多くなったことをうけ、韓国政府は4段階に分類される危機警報レベルを「警戒」から最高レベルである「深刻」にあげた。2009年の新型インフルエンザの世界的流行以来11年ぶりの緊急事態である。

 政府に対する批判が起きないわけがない。今韓国政府が最も批判されているのは初期のうちに中国人に対する入国禁止措置を行わなかったことに対してだ。医師協会は初期段階から、武漢地域だけではなく中国全地域からの入国者を制限すべきだと繰り返し主張してきた。それでも政府は入国制限の措置をとることはしなかった。状態が悪化した今、医師協会の勧告を受け入れなかった政府を批判する国民の声が一層高まっている。

 とはいえ韓国政府にとって中国人の入国禁止措置は簡単に踏み切れるような問題ではない。中国との関係、特に上半期に予定されていた習近平国家主席の訪韓を控えたこの時期に中国の逆鱗に触れるような対応は絶対に避けるべきだからだ。さらに、中国人に対する差別、嫌悪といった雰囲気が韓国社会に広がる可能性も韓国政府に決断をためらわせた理由の一つだ。

 そしてもう一つ指摘しなければならないのは、朴槿惠政権との比較を意識した結果の行き過ぎた「楽観論」のために初期対応をしくじってしまったという一面だ。

MERS騒動の際に感染者拡大を政権攻撃の武器にした文在寅氏

 1月初旬、中国でコロナウイルスが拡散しているという報道が流れたとき、多くの韓国人の頭に浮かんだのが2015年5月に起きたMERS騒動だ。この時、韓国では患者の隔離措置における不備や、非常管理体制における混乱などにより186名の感染者、そして38名の死亡者が発生した。

 当時、この事態を招いた原因の一つと目され、批判を受けたが、事態を総体的に指揮する機関、いわゆる「コントロールタワー」の不在だった。