自動車メーカーのマツダが、タイで行っていた生産の一部を国内に戻すと報道されている。タイの通貨バーツの上昇が続き、採算が悪化したことが直接的な理由だが、日本経済の低迷が長引き、日本の賃金が相対的に安くなったことも大きい。ここ数年、中国や東南アジアから撤退し、日本国内に生産拠点を移す企業が増えている。国内の雇用が増えるのはよいことだが、これは日本が貧しくなっていることの裏返しでもあり、素直に喜べる話ではない。(加谷 珪一:経済評論家)
マツダが生産の一部をタイから日本に移管
タイは日本の自動車メーカーにとって主要な海外生産拠点の1つであり、マツダだけでなく、トヨタやいすゞ、ホンダなど各社が現地に工場を構えている。マツダでは、タイの工場で生産したクルマをオーストラリアに輸出していたが、一部を国内生産に切り換えるという。
マツダがタイから国内への生産をシフトさせる理由は、タイの通貨バーツが上昇し、現地生産の採算が悪化したからである。2012年には1バーツ=2.5円程度だったが、その後、タイ経済の順調な拡大によってバーツも値を上げ、最近では1バーツ=3.6円程度まで上昇している。
だが、国内生産にシフトする理由は単に為替レートの問題だけではない。タイや中国などアジア圏内の賃金がこのところ急激に上昇しており、アジアという地域が低コストな場所ではなくなっていることが大きく影響している。実際、ここ2~3年の間に、中国などアジア地域の生産拠点を国内に回帰させる動きが目立つ。
資生堂は、新工場を国外ではなく国内で建設を進めており、昨年も福岡県で新たに工場を建設すると発表している。ユニ・チャームは福岡県で新工場を建設したほか、ライオンも香川県での建設を進めている。このほかパナソニックやキヤノン、TDKなども一部の生産拠点を中国などから国内にシフトしている。
2018年度版ものづくり白書によると、過去1年間で国内生産に戻したケースがあるという企業は全体の14.3%で、2016年の調査と比較すると2.5ポイント増加した。国内生産に戻す前の地域は中国・香港が62.2%と圧倒的に多くなっており、続いてタイ(10.8%)、ベトナム(6.3%)と続く。大きな枠組みとしては、中国での生産を国内に切り換える動きが進んでいるとみてよい。