台湾TSMCの会社ロゴ(写真:ロイター/アフロ)

(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)

ビッグ3の中で絶好調のTSMCだが・・・

 プロセッサのシェア1位の米インテル、メモリのチャンピオンの韓国サムスン電子、半導体製造専門のファウンドリで世界を制覇した台湾TSMC。半導体業界では、この3社を、10年ほど前から“ビッグ3”と呼ぶようになった。各半導体分野で、この3社の存在感は突出しており、世界半導体売上高でも必ず上位を占めているからだ。

 ところが、インテルは2016年に、14nmから10nmへの移行に失敗し、それが原因でプロセッサの供給不足を引き起こしている(JBpress、2020年1月3日「プロセッサ供給不足で謝罪したインテルの異常事態」)。インテルは、2019年にサムスン電子に代わって2年ぶりに世界半導体売上高ランキング1位に返り咲いた。しかし、これは、世界的にプロセッサが足りないため、価格が高騰し、それがインテルの売上高を押し上げただけのことである。これではインテルを真の盟主とは呼べないだろう。

 一方、2017年と2018年に、インテルに代わってランキング1位に躍り出たサムスン電子は、2019年に半導体売上高が約30%減少した。プロセッサの供給不足により、PC用およびデータセンタに使われるサーバー用を見込んで大量生産したDRAMとNANDが行き場を失ってしまい、価格暴落を招いたからだ。

 このように、インテルとサムスン電子が苦境に陥っている中で、TSMCの業績が好調であることが大きく目立つ。また、インテルが最先端の微細化に悪戦苦闘しているのを尻目に、TSMCの微細化は計画通り進んでおり、絶好調である。

 しかし、そのTSMCが米中ハイテク戦争の板挟みにあって、非常に難しい経営判断を迫られている。TSMCは、中国ファーウェイのスマートフォンのプロセッサを製造している。そのビジネス規模は、TSMCの売上の約10%にのぼる。ところが、ファーウェイを危険視している米国政府は、TSMCに圧力をかけ続けている。TSMCは米国の最新鋭ステルス戦闘機「F35」などに搭載される軍用半導体を製造しているが、米政府はこれを米国内で生産するように求めている(日経新聞1月16日)。TSMCは判断を保留しているが、もし断った場合どういう事態になるだろうか?

 本稿では、まず、TSMCの業績、微細化の進展、製造している半導体の用途、地域別比率を示す。その上で、TSMCが直面している問題について詳細を述べる。そして、TSMCの経営判断は、日本の部品や材料メーカーにも何らかの影響を及ぼす可能性があることを論じる。

TSMCの四半期ごとの業績

 図1に、TSMCの四半期ごとの売上高、営業利益、営業利益率を示す。TSMCの売上高と営業利益は毎年、第3四半期または第4四半期にピークがあり、第1四半期以降に低下するという上下動を繰り返している。これは、毎年の年末から新年にかけて、新しいスマホ、PC、デジタル家電の売れ行きが好調になるため、それに先立って、TSMCが半導体を製造するためであると思われる。

図1 TSMCの四半期ごとの売上高と営業利益(率)
出所:TSMCの決算報告書を基に筆者作成
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