(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役)
「いったい、何てこった!」
2020年1月7日。軍事以外は何でもありの「世界最大の民生技術の展示会CES」(シー・イー・エス)の初日。トータルの歩数は軽く3万歩をオーバー、メイン会場であるLVCC(ラスベカス・コンベンションセンター)やテックウエストと呼ばれるサンズ・ベネチアンホテル会場を隅々まで歩き回った末の率直な感想である。
どうやら同じような思いを抱いたのは筆者だけではなかったようだ。会場で日本から来た記者や有識者の方々と何度かすれ違った際は、「今年のCES、どうですか?」「いったい何なんでしょうかね」というやり取りが挨拶がわりになってしまっていた。
そう、CES 2020はいざ蓋を開けてみれば、意外なことに、主役であるはずの5G対応のスマートフォンや5Gのコンシューマ向けアプリやソリューションにほとんど見るべきものがなかったのである(そのせいで5G普及が前提で開発が進んでいる自動運転や産業IoT関連企業のブースを長時間さまようことになったわけである)。
まず5G対応スマートフォンに関しては、折りたたみができる端末として話題の「Galaxy Fold 5G」など5機種を並べたサムスン以外は、LG(韓国国内向け)、ファーウェイとハイセンスの中国勢(いずれも中国国内向け)、シャープ(ソフトバンク向け)、京セラ(モックアップ展示)のそれぞれ1機種程度の展示にとどまり、完全に肩透かしを食らった感じになった。
そればかりか、圧倒的にスピードが出るミリ波対応の5G向け半導体ではほぼ世界市場シェア100%のクアルコムは、昨年(2019年)末に「Snapdragon865」(ハイエンド向け)、「Snapdragon765/765G」(ミドルレンジ向け)をリリースして期待を煽っておきながら、今年はあろうことかブースでの展示を見送った(ただし自動運転関連では出展)。また、クオリティの高い複合現実(MR: Mixed Reality)を実現するスマートグラス「ホロレンズ 2」(Hololens 2)で主に先進医療や製造業向けを中心に5Gソリューションを牽引するはずのマイクロソフトも一般の来場者向けには接点を持たなかった。
昨年7月末に自力での5G半導体の開発を諦め、アップルに5G技術と開発人材を10億ドルで買収したインテルのその後の動向にも注目だったが、例年までとは違いブースでの展示は一切行わずに、プレス向けのイベントでAIチップ、AIユニットの性能と豊富さをアピールするに止まった。
筆者は昨年の12月中旬、「JDIR」に「5Gで世界は一変、CES 2020の見どころを一挙紹介」と題する記事を寄稿した。だが、申し訳ないことに「CES 2020をきっかけに5Gが人々の生活や企業のサービス提供のあり方を大きく変えていくはず」という筆者の見立ては大きく外れてしまったのである。記事を読んでいただいて5G、特に対応スマートフォン、コンシューマ向けのアプリ・ソリューションに大きな期待を抱いてラスベガスまで足を運んでいただいた方にはまず、お詫びを申し上げなくてはならない。
見えてきた企業間競争ルールの3つの変化
しかしながら、今回「5Gという主役なきCES 2020」の視察が無益だったかといえば全くそうではない。負け惜しみに聞こえるかもしれないが、かえって5G狂想曲に翻弄されずに済んだ分、展示や基調講演を通じて、テック業界でここ1~2年で確実に起きている変化の本質に着眼するチャンスをもらったと考えている。
筆者がCES 2020で得た重要な気づきは以下の3点である。