(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)
それは異様な朝だった。ソウルの街にマスクをつけた人があふれているのだ。
元々、韓国人はあまりマスクをつけず、マスクといえば日本人の代名詞のようになっていた。それが、PM2.5(大気汚染を引き起こす「微小粒子状物質」)の騒ぎでこの数年、マスクをつけるのは隣国事ではなくなってきた。見慣れてきたはずの韓国人のマスク姿だが、その日の朝の光景には驚かされた。ソウルの片隅にある我が家の近所でさえも、ここは日本ではないかと見まごうまでに、マスクをつけた人であふれているのだ。
地下鉄内では7割近くがマスクを着用
そうなった理由は言うまでもない。新種のコロナウイルス拡散が韓国でも現実味を帯びてきたからだ。
中国・武漢在住で春節の休暇を利用して一時帰国していたという韓国人が、感染していることが判明するまでの数日間、江南界隈を中心にして街中を歩き回っていた。ちなみに感染者が滞在していたという江南のホテルでは、キャンセルが相次いだという。そのホテルだけでなく、周辺の飲食店やカフェにもその感染者は立ち寄っていたわけで、そうすると、江南はもしかしたらさらに感染が広がっているかもしれない。いや、江南で感染が広がっているのであれば、ソウル全体に広まるのは時間の問題だ。そう考える人が出てくるのも無理はない。