彦根城(滋賀県) 撮影/西股総生

(城郭・戦国史研究家:西股 総生)

城を構成するもっとも原初的なアイテム「堀」

 「お城の連載だというのに、石垣から始まって次は堀か。何だか地味だなあ…」なんて、いわないで下さい。

 堀と石垣は、あなたが実際に城を訪れて、まず最初に出会うものです。それに何といっても、城にとってのマストアイテムなのですから。だって、いくら天守や御殿が立派でも、敵が簡単に入ってこられるようでは、城としてダメダメでしょう?

写真1:大阪城。いくら天守が立派でも、堀や石垣がなければ城として役に立たない。 撮影/西股総生

 実際、考古学におけるグローバルスタンダードな考え方では、人を殺傷するための専用の道具=武器と、堀に囲まれた村=環壕集落の出現をもって、戦争の始まりと見なすのが普通です。堀とは、城を構成するもっとも原初的なアイテムなのです。

写真2:吉野ヶ里遺跡(佐賀県)の環壕。弥生時代には、このような環濠集落が日本の各地に出現した。戦争の時代の始まりである。 撮影/西股総生

 天守や櫓が残っていない城でも、堀ならたいがいは残っています。ということは、堀を見て「面白い」と思えるようになれば、日本中どこの城へ行っても面白がれるのです。これって、とってもお得だと思いませんか?(笑)

堀の種類とは?

 さて、堀には、水を張った水堀と、水のない空堀(からぼり)があります。水堀は、落ちると溺れてしまいます。「泳いで渡ればいいじゃん!」なんて、言っているのは誰ですか? 城攻めでは、甲冑や槍や刀を身につけているのですからね。

写真3:名古屋城の水堀。鎧を着たまま泳いで渡ることはできそうもない(決して実験しないように)。 撮影/西股総生

 対する空堀は溺れはしませんが、落ちると痛いです。打ち所が悪ければ、死んでしまうかもしれませんし、怪我をして動けなくなったあなたを、城兵は見逃してくれないでしょうね。水がないからといって、侮ることはできないのです。

写真4:大分県にある日出(ひじ)城の空堀。鎧を着たまま落ちたら、かなり痛そうだ(実験したい人 … いませんね)。 撮影/西股総生

 また、断面が四角い堀を箱堀(はこぼり)、断面がV字形のものを薬研堀(やげんぼり)と呼びます。薬研とは薬の材料をすり潰すのに使った道具で、時代劇で赤ひげ先生や徳川家康がゴリゴリやっているやつです。