(城郭・戦国史研究家:西股 総生)
城を構成するもっとも原初的なアイテム「堀」
「お城の連載だというのに、石垣から始まって次は堀か。何だか地味だなあ…」なんて、いわないで下さい。
堀と石垣は、あなたが実際に城を訪れて、まず最初に出会うものです。それに何といっても、城にとってのマストアイテムなのですから。だって、いくら天守や御殿が立派でも、敵が簡単に入ってこられるようでは、城としてダメダメでしょう?
実際、考古学におけるグローバルスタンダードな考え方では、人を殺傷するための専用の道具=武器と、堀に囲まれた村=環壕集落の出現をもって、戦争の始まりと見なすのが普通です。堀とは、城を構成するもっとも原初的なアイテムなのです。
天守や櫓が残っていない城でも、堀ならたいがいは残っています。ということは、堀を見て「面白い」と思えるようになれば、日本中どこの城へ行っても面白がれるのです。これって、とってもお得だと思いませんか?(笑)
堀の種類とは?
さて、堀には、水を張った水堀と、水のない空堀(からぼり)があります。水堀は、落ちると溺れてしまいます。「泳いで渡ればいいじゃん!」なんて、言っているのは誰ですか? 城攻めでは、甲冑や槍や刀を身につけているのですからね。
対する空堀は溺れはしませんが、落ちると痛いです。打ち所が悪ければ、死んでしまうかもしれませんし、怪我をして動けなくなったあなたを、城兵は見逃してくれないでしょうね。水がないからといって、侮ることはできないのです。
また、断面が四角い堀を箱堀(はこぼり)、断面がV字形のものを薬研堀(やげんぼり)と呼びます。薬研とは薬の材料をすり潰すのに使った道具で、時代劇で赤ひげ先生や徳川家康がゴリゴリやっているやつです。