もっとも男性諸氏にとって、覗いてみたい「異界」は女子刑務所ではないか。古くから、女子刑務所の映画は人気がある。たとえば、東京映画が制作した女子刑務所モノ、原節子が保安課長を務める『女囚とともに』(1956年)。プログラムピクチャー制作、梶芽衣子主演『女囚701号さそり』(1972年)などである。ちなみに、女子刑務所の分類指標はW級という。
役者が、銀幕の中で派手に立ち回りをするから、映画は面白い。しかし、昨今の刑務所モノの本を読むと、どうも大人しい。男性の刑務所では、看守のことを「オヤジ」と呼ぶ。女性の場合は「先生」である。女子刑務所の本を読むと、筆者の主観だが「女性看守の先生は頑張っていて、大変。でも、お陰でこんなにちゃんと更生できました」というような筆風である。確かに、そうした美談もあるだろう。
しかし、一方で、ブラックな先生、グレーな環境も存在するのである。以下では、筆者が取材した二人の姐さんから聞いた女子刑務所の話を紹介したい。
『組長の娘』が回想する女子刑務所
以下は、この連載で何度か紹介した『組長の娘』茂代姐さんの述懐である。
刑務所、いや、大学言うた方が、うちは慣れてるし、滑舌いいな。その中での生活について話さんとな。入学して最初の3日間は独居房に入れられて、その後の2週間は、観察工場(考査工場)に配属されんのや。ここで、うちの作業適正をチェックされんのやな。観察工場では「クルクル」作りよったな。クルクルいうんは、100均で売っとる生クリーム絞りの上の部分や、ナイロンのところな。それを一日に何十個、何百個と作りながら、たまに先生に呼ばれて職業適正試験や性格テストなんかされるわけや。その後、正式な配置が決まる。
ここで、他の受刑者に「あんた、何やったたんや? 何年持ってきたんや?」とか聞かれんねん。うち、長いから正直に言うと、ホッとすんのやろうな「自分の方が短い」思うてな。ここで、嘘言うても、後から、ほぼメクレんねん。刑務所では何やったかが地位を決めんのや。もっとも、女子の大学はシャブ関係が最も多いな。
その他「あいつは“おじゃまします”や」言うたら空き巣屋さん。「あれは“パンサー”やで」言うたらドロボーやねんな(パンサーとは、ピンク・パンサーのこと)。最悪なんは“やっちゃった”やな。これは自分の子ども殺した奴な。大体、大人しそうな女が多いけどな、“やっちゃった”は誰からも相手にされん最悪の罪やな。