これは、大学出た後で分かったことなんやが、大学の中で肩で風切って歩きよる奴も、シャバ出たら見る影もない奴多いな。逆に、シャバで威勢のいい奴が、大学では小さくなっとる。面白い現象や。あ、言い忘れとったが、大学入ると名前ちゃうで、番号で呼ばれんのや(称呼番号)。L刑(長期刑)の受刑者は1番台100から199番、外国人は500、600~の番号やった。うちの番号、名誉ある長期刑、131番やってん。

刑務所の一日

 大学の朝は早うてな、6時30分になったらスピーカーが喋り出すねん。「起床の時間になりました。今日も一日頑張りましょう」てな。舎房では、それを合図にソッコー起きて布団上げや。朝点検(先生の点呼)まで30分しかないからバタバタやったで。一番手は布団上げ、べべ(新参者)はトイレ掃除と、それぞれの役割を大急ぎでせなあかん。

 寝起きから気分の悪い「点検! 番号!」の先生チェック済んだら、7時10分から舎房でモーニングになる。初めの頃、飯の時間にな面食らう儀式や思うてたことがあるんや。

 班長が飯をよそい分けるやんか、そしたら、皆で「せーの」言いよんねん。何や、朝から本引き(博打)でも始めんのかいな思うたら、新入り二人が、それぞれ1~4の番号を言うわけや。それ足した番号の位置にある飯が、一番手の人の飯になる(雑居には8名いるから、2人足して8がマックスにならんとあかん。せやから、4までの数字言うんやな)。同時に、二番、三番手の飯も決まるわけや。これはな、飯の量が多いの、少ないのと文句垂れんように、まあ、不正配食防止のくじ引きさすわけや。これが毎朝の儀式やったんで。今でも、大勢で飯するとき、思わず「せーの」言いそうになんねん。

 モーニングが終わると、7時50分には身支度して「出寮」、先生と一緒に工場まで行進すんねんな(男みたいに軍隊式の手振りはなし)。まあ、中学校の社会見学、思い出すような光景や。うちの場合は、縫製工場やから、さしずめ家庭科室や。先生が二名、黒板の前に立つ、うちらは三列に並んで作業場の注意を受ける。毎日やられたら耳にタコができる。大体、口上はこんな感じやねん。

「おはようございます。今日一日、一生懸命に働きましょう。気持ちを引き締め、心を平和で安全作業守りましょう。無駄口、よそ見は事故のもと、決まった手順で作業に集中しましょう。服装の乱れは心の乱れ、正しい身なりで仕事に励みましょう。機械、工具は身体の一部、作業のはじめに先ず点検。作業終了後は、すみやかに手入れしましょう」

女子刑務所がある栃木刑務所の洋裁工場(法務省「刑務作業のご案内」HPより)

 工場の作業は、午前8時から、午後の16時40分までやねん。12時から12時45分までが休憩、大食堂で昼食して、晴れた日は、毎日運動場に出れんのやな(ここでナンパされんねん)。雨の日は工場で体操や。昼食の時も、ハプニングがあんねんな。大勢が一堂に会するから、受刑者同士の摩擦が生じる。モノ投げて喧嘩する。すると、先生が15人位、ビデオカメラ持って集まって来るんや。こんなんあったら、貴重な休憩時間が邪魔されるやんか。