工場の作業中がまた面倒やねん。「ちょっとスイマセン、お手洗い」なんて言うて勝手に席立ったりしたら注意や。先生に用事がある時は、挙手せなあかん。他にも班長と講談したい挙手、時間外トイレの挙手やねん。何や、大したことないやんけ・・・思うやろ、ちゃうんや。これをやらんと「不正(ふせい)講談(こうだん)」取られて、「説諭(せつゆ)処分(しょぶん)」や。これ食らうと、減点処分やねん。進級にかかわってくるから、アカンねんな。マイナスになるんや。

 16時40分に終業したら、16時50分に帰寮(舎房に戻るんやな)、17時に「夕点検」の点呼、片付けして17時15分には晩飯や。どんな年寄家庭でも、こんな早い晩飯はないやろ。18時からは事実上のフリータイム、ここでは洗濯とかすんねんけどな、みんなアゴいってんな。18時55分に仮就寝、21時には就寝やねん。まあ、大学いうところは、こんな退屈な一日の繰り返しやねん。

女囚の階級

 女囚は名前やなく、主に番号で呼ばれる言うたが、もう一つ、身分が分かる仕組みあんねん。それは、胸に付けとるバッチやねん。禁固刑はピンク、うちら懲役は、初めは黄色スタートや。そこから、白、白に☆一つ(二級)、白に☆二つ(一級)となるんやな。

 こないに言うたら、なんや簡単そうなんやが、これ――ランク上がるんが相当シンドイねん。なしてランク上げなあかんかいうたらな、「優遇」受けられんねん。そんで、受けられる特典が違うねんな。黄色は集会が月一回しかでけん。集会いうたら、お菓子食べられんねん。むろん、自分の金(刑務所内で働いて稼いだ報酬金)で買うんや。

 あと、面会は月に二回やったな。これが、白になると、集会が月に二回になるねん。そこに☆がひとつ付いたら、ビオレやサンダルも買えるし、面会も先生の付添無しで、月に五回できんねん。☆ふたつ付いたら、月に二回、マクド(マクドナルド)やパン(ヤマザキかリョーユーのレベルやで、アンデルセンなんかの高級品は無理や)も買えんのや。むろん、これはうちらがショッピングやなくて、先生が買いに行くんやがな。

刑務所の規則

 刑務所くる女は二種類おんねん。ひとつは、(仮釈放なしの)満期上等! 喧嘩上等! で問題起こす女な。こいつらは怖いモノなしやから、近寄ったらこっちがとばっちり食うねん。

 もうひとつは、うちのように、シャバとは違って真面目にする模範囚な。こんなところ一日も早く出たいいうマトモなタイプやな。大人しゅうしてた方が「優遇」受けられるし、その方が、刑務所の中楽やで。だから、うちは頑張ったんや。刑務所暮らしを一言で表すとしたら、ともかく「忍耐――ならぬ堪忍、するが堪忍」「短気は損気、損気は満期」やな。

 しかしな、どこの社会にも足を引っ張るやつはおる。大体、大学の規則がメッチャ厳しいからな、それだけでも、進級は大変なんや。ちょっとでも規則違反したら、注意や懲罰やねん。規則いうても、なんや訳わからん小学校みたいなもんでな、たとえば、こんなのあんねん。

 寮(舎房)にカレンダーがあるわけや。そこが破れているとする。潔癖症の奴が、止めときゃええんに、それをキレイに繕おう思うてな、食事の麦飯の米粒を糊の代用として貼り付けるやんか、これだけで、もうアウト。そいつ懲罰やねん。

 あるいはな、うちの所持品の本を、同房のアカネという子が読んでいるのを先生に見つかると、これまた懲罰やねん。親切なおばあちゃんなんか、ミカンとかくれるやんか、それも皮発見で懲罰やねん。しゃあかて・・・しゃあない、年よりの親切は受けなあかん、そんな義理堅いうちは、皮まで食べて証拠隠滅せなあかんかった。

 この懲罰や注意いう規則違反の指摘、先生によって違うしな、もっと言うと、先生の虫の居所でも違うんやな。先生に目ェ付けられたら、そこは女や、目が早いな、うちらのしそうなこと知り尽くしてるからな。学校では、先生が法律や。満期が嫌なら、忍耐やな。

 注意を3回もらうと「懲罰」なんてものを頂戴するんやが、そうなったら、その年はアカン、もう進級はないねんな。そないな訳の分からん規則に加え、いつ、だれが願箋(ガンセン=紙面による報告やお願い)使ってチンコロするかわからんから、油断も隙もないわけや。ちなみに、刑務所でモノ言うときは全て願箋。「先生、うんこ出ません」いうレベルも願箋なんや。

 女子刑務所の日常は、こんな具合である。茂代姐さんは模範囚であったから、刑務官の嫌吉(*嫌がらせをする人)にはあっていない。では、刑務所の裏側はどうなっているのだろうか。次回は、懲罰がナンボのもんや、満期上等、喧嘩上等のスタンスで、複数回の懲役を務めた『組長の妻、はじめます』の主人公、亜弓姐さんにナビゲートしてもらうことにする。