代わりに提案したい、新規事業の目利き規準は「価値規準の書き換え」ができるかどうか、だ。

 たとえば筆者は常々、なんでカラフルな塩ビ管がないのか、不思議に思っている。ホームセンターに行くと、塩ビ管は灰色か黒しかない。塩ビ管は、土中に埋めたり太陽光線のあたる場所に設置されたりと、使用条件が厳しく、それに耐える素材となると、灰色か黒しか色が選べない、という事情があることが分かる。だからカラフルな塩ビ管がないということも知っている。

 だが、京都のお寺で、すばらしい庭園だなあ、と眺めていて、目の端に灰色の塩ビ管が走っているのを見ると、実に興ざめだ。景色を台無しにしてしまうのだ。もし、木目調や漆器調、迷彩塗装の塩ビ管があったら。むしろ、庭園を引き立てるエクステリアのひとつとして役立つかもしれない。

 もし真っ赤、あるいはスカイブルーの塩ビ管があったなら。シンクの下の排水管は、灰色で見た目にみっともないから隠しているが、カラフルな排水管であったら、むしろそれをむき出しにして見せ、インテリアとして楽しむこともできるだろう。

 従来の塩ビ管が「どんな過酷な使用条件でも丈夫に」という価値規準での優秀さを競っていたのを、「魅せる」という価値規準に書き換えたら。塩ビ管は加工も簡単なので、デザイナーが思いもよらないインテリアとして活用する案を提供してくれるようになるかもしれない。

価値規準が長く変わっていないところに好機

「価値規準の書き換え」を目標にすれば、すでに市場を席巻している製品があったとしても、勢力図を根底から書き直すことになる可能性がある。そうなれば、市場はどれだけ大きくなるか分からない。

 価値規準が長らく変化していない業界を探し、そこでの価値規準の書き換えを目指す。それを新規事業の目利きの基準にすれば、もっともっと面白い商品が生まれやすくなり、大化けする商品が誕生する確率を上げることができるだろう。

「100億」、忘れよう。それよりも、ゲームのルールを書き換える「価値規準の書き換え」を、新規事業の目安にしてはいかがだろうか。