学校の「保健室」は、学校生活の「不安」を丸ごとケアしてくれるような場所だった。そこでは「保健の先生」がいて、ケガや体調不良のケアをしてくれるが、それだけではなかった。クラスに馴染めないような子が、登校したら教室ではなく保健室に直行し、そこで一人で勉強することもあった。親や教師、クラスメートに話せない悩みを聞いてくれる保健の先生もいた。
だが大人になると、そんなふんわりとした優しい場所はなくなっていく。体調が悪ければ病院へ行くが、まずは自分で症状から判断して病院や診療科を決めなくてはならない。いざ診察を受ければ、なるべく的確に短時間で結果や解決を求めてしまうし、求められている――。
しかし、大人になっても、正確に判断したり、はっきり解決できないことはたくさんある。そんな時、あの「保健室」のような場所があったら・・・。
全国に広がる誰もが入れる「保健室」
そんな潜在的なニーズを汲み取って、誰でも気楽に入れる場所が、2011年に東京・新宿に開設された「暮らしの保健室」だ。都内で訪問看護を行っていた看護師の秋山正子氏が、孤独死・孤立死が問題視されていた東京都新宿区戸山ハイツで始めた取り組みだ。
そこでは、健康や生活にかかわるさまざまな相談に医療者やボランティアが応じている。別に相談事がなくたっていい。訪問者同士でおしゃべりをしたり、お茶を飲んだりしたっていい。誰もが気軽に立ち寄れる場所になっている。だから利用者によっては、地域で誰かとつながって生きていく拠りどころの機能も果たしている――こうした「暮らしの保健室」の仕組みが、いま全国に広がりつつある。