1.中国国有企業が先進諸国にとって大きな脅威とならない理由
米国および欧州諸国に出張し、国際政治・経済の専門家の方々と議論をしていると、中国の国家資本主義が世界を席巻することが将来、先進諸国にとって非常に大きな脅威となるとの見方が広く共有されていることに気づかされる。
もちろん日本でも少なからずそうした見方をする人たちがいる。
とは言え、中国現地で長期駐在している日本企業の駐在員の多くは国有企業の非効率な経営実態を理解しており、日本国内ではその情報がある程度共有されているため、欧米ほど中国国有企業の脅威を不安視する見方は強くないように感じられる。
それに比べて、欧米諸国ではすべてとは言わないが、大多数の専門家が、中国の国有企業は巨額の補助金、外資企業・中国民間企業に対する市場参入規制などの保護政策によって支えられており、国家が後押しする巨大な収益力を活用して世界市場を席巻することを恐れている。
これに対して筆者は、その都度以下の点を説明してその誤解を解くよう努めている。
第1に、中国において国有企業の経営が民間企業に比べて非効率であることは明らかである。
その主な理由の一つは、国有企業の売上高・利潤総額の半分以上を占める中央企業(中央政府直接管理下の大規模国有企業)を中心に、国有企業の経営は国家の政策目標の推進が最優先課題であり、経営効率は二の次の問題であるためである。
党・中央政府により高く評価された経営者は中央政府の大臣、地方政府の省長等中央地方政府の要職に就くことが多い。
政府にとって国有企業は政策運営を肩代わりする大切な存在であるため、必要に応じて補助金も与える。
しかし、それは国有企業の経営効率を向上させ、国際競争力を高め、世界市場を席巻することを主眼とするものではない。