フランスのような先進民主主義国と香港とを同列に論じることはできないが、香港市民の今回の運動が半世紀前の5月革命に似ている点があることは注目に値すると思う。
さらに言えば、抑圧的な体制からの自由を求める運動という意味では、5月革命の数カ月前に起こった「プラハの春」にも似ている。1968年1月、チェコスロヴァキアでは、ドプチェク共産党第一書記が、事前検閲の廃止、市場経済方式の導入など、「人間の顔をした社会主義」を目指したのである。しかし、この民主化への動きは、ソ連のブレジネフが率いるワルシャワ機構軍の戦車で弾圧されてしまった。
難しい舵取り迫られる習近平政権
今後の最大の問題は、中国の対応である。10月1日の建国70周年までは、香港情勢を静観するであろう。習近平政権は、下手に強硬手段に出て、香港市民のみならず、アメリカやEUなどの国際社会の反発を買うことを恐れているからである。しかも、貿易摩擦でアメリカとの関係が悪化しており、香港問題でさらなる緊張状態をもたらすことは望ましくない。
しかしながら、香港の民主化運動が掲げている要求を飲むことは、北京政府の正統性を自ら否定することにつながるし、台湾の統一という長期目標にも影響を及ぼす。
資本主義経済体制の下で民主主義を実行してきた日米欧などの先進民主主義国では、「経済が発展すれば政治は民主化する」、「政治的自由のないところに経済発展はない」ということを当然の前提としていた。しかし、その前提を覆すような経済発展を、共産党一党独裁の中国が成し遂げたのである。
鄧小平が1978年に始めた「改革開放」路線、社会主義市場経済路線は、40年経った今、GDPで世界第二位になるという成果を収めたが、一方では、アメリカとの世界の覇権をめぐる熾烈な争いを引き起こしている。トランプ大統領の乱暴な中国封じ込め政策が功を奏して共産党政権の瓦解にまでつながるのか、共産党による中国の実験は今後も続くのか、定かではない。
今から30年前の1989年6月4日には、民主化を求める市民のデモが戦車で弾圧された天安門事件が起こっている。戒厳令を布告して対処したのが鄧小平である。香港の騒動が、第二の天安門事件に発展しない保証もまたない。対応次第では、習近平の指導力が問題になる事態に発展するかもしれない。