大統領も怒り心頭になる理由

 身柄を拘束された43人のパプア人学生はその後、ネットで流れた情報が偽情報で学生寮やパプア人学生は無関係であることがわかり、同日夜に全員が解放された。

 偽情報に基づく事案とはいえ、それが各地のパプア人の怒りを招いたことを重視したスラバヤ市長、東ジャワ州知事は相次いでマスコミを通じて「起きてしまったことに対して謝罪する」として素早く公式に謝罪し、地元パプア人コミュニティー代表と会談するなどして良好な関係をアピールして事態の沈静化に乗り出した。だがこれとて対処療法的で泥縄式な対応で事案の根本的問題への解決につながるものではない。

 偽情報に基づいて身柄拘束に乗り出し、パプア人を住民と一緒に侮辱したという警察の行為に関して国家警察幹部は「偽情報と誤解に基づく事件で遺憾である」と述べるにとどまっていることがそれを示している。

 警察は偽情報に関連したツイッターのアカウントを凍結するとともに流布に関連した容疑者の捜索やパプア地方での騒乱で放火や商店襲撃、略奪などに関与した人物の捜査に専念することで「治安維持」に努める姿をアピールすることに躍起となっているのだ。

インドネシアの絶対的タブー「SARA」

 インドネシアには触れることが禁忌(タブー)とされる4つのことがあるといわれている。「種族、宗教、人種、社会集団」がそれで、それぞれのインドネシア語の単語の最初の字を並べて「SARA(サラ)」と称される。

 この問題に対する矛盾や不安が高まると社会の安定が損なわれ、分断の危機を招くとされ、可能な限り触れないこと、問題提起をしないことが求められる「禁断のテーマ」である。

 今回のパプア人の問題はこのSARAの「種族」に関わるものであるが、インドネシア社会がこぞってその沈静化に動いている背景にあるという。

 ことの重大性を一番認識しているのはジョコ・ウィドド大統領で、いち早く「パプア人の不満はよくわかる。だが、お互いに許し合うことも大事だ」と呼びかける一方で、軍や警察に対しては「差別発言をした者は厳しく糾弾せよ」と徹底的な捜査を命じた。身内の不用意な発言が燎原の火の如く巻き起こした今回の事件に「きちんとケジメをつけろ」という大統領の治安当局への厳しい注文といえるだろう。

 22日には首都ジャカルタの大統領官邸前で約200人のパプア人がデモを行い「独立を問う住民投票の実施」を訴え、所持や掲揚が禁止されているパプア独立旗「モーニング・スター(明けの明星旗)」を掲げた。

 警戒にあたる警察部隊は一部でデモ隊と小競り合いにはなったが、旗を没収したり放水や催涙ガスなどの強硬手段を取ったりすることは控え、さらなるパプア人の怒りと反発を警戒して極めて冷静で整然とした対応に終始した。

 ついに禁断の旗を掲げて「独立を問う住民投票」まで要求する事態になり、問題は極めて深刻化している。

 そうでなくてもパプア地方は独立を求める武装組織による抵抗運動が細々とではあるが、1963年のインドネシア軍によるパプア軍事侵攻以来続いている「厄介な地域」であるところに発生した今回の事態である。パプア各地のデモ隊の中に独立武装組織「自由パプア軍(OPM)」のメンバーが紛れ込んで、治安悪化に拍車をかけているとの一部情報もあり、治安当局は極度に警戒を強めている。