(PanAsiaNews:大塚智彦)
東南アジアの大国インドネシアが今、重大な治安問題と政治課題に直面している。広大な国土の最東端、ニューギニア島の西半分を占めるパプア州、西パプア州の各地で先住民族でもあるパプア人の積年の鬱憤、怒り、不満が爆発し、デモや集会から一部が暴徒化して公共施設の放火や破壊など騒乱状態となっているのだ。
インドネシア政府は8月21日に両州でのインターネットのアクセスを全面的に制限する措置を取った。「偽情報や誤ったニュースによるさらなる治安悪化」を防ぐためというのが情報通信省の言い分で、期間は「治安状況が改善するまで」と明示していない。この措置に対しインドネシアの「独立ジャーナリスト連盟(AJI)」は22日に「通信制限はパプアの人々の人権侵害そのものである」「現地でのジャーナリストの取材活動も制限される」として、パプア人に対する政府、治安当局の対応そのものが「差別」に根差していることを指摘している。
各地でパプア人のインドネシアへの不満が噴出する事態を受けて、政府閣僚や国家警察幹部、政党関係者などはこぞって「パプア人も同じインドネシア国民、紅白の国旗の下に一致団結」と事態の沈静化を懸命に訴えている。
しかしパプア人にはそうした言動は白々しい言い逃れにしか聞こえず、対話を呼びかける一方で、8月19日には多くの軍兵士や警察官が治安維持のためとして現地に増派されて厳戒態勢が敷かれ、ネットは制限されるなどパプア人の生活は著しい不便に見舞われているのが現状なのだ。
このように事態の深刻化を招いたのは、治安組織による情勢判断の間違いと、その後の動向を甘く見たという誤算、さらに政府による泥縄式の対策などによる相乗作用の結果といえるが、根底には根深く横たわるジャワ人をはじめとする非パプアの人々によるパプア人への優越感に基づく差別意識があるのは間違いない。
パプア人学生に対する侮辱、嘲笑、罵倒
8月17日、ジャワ島東ジャワ州の州都スラバヤにあるパプア人大学生の住む学生寮に、警察官らが家宅捜査のために踏み込んだ。インターネット上にインドネシア国旗を侮辱して廃棄する映像がこの日アップされたのだが、学生寮の国旗が消えていたことから「犯行現場」と目され、集まった一般市民の見守る中で捜索が始まり43人のパプア人学生が身柄を拘束されたのだ。
この際、治安当局者や市民からパプア人学生に対し「サル」「ブタ」「イヌ」「コテカ(ペニスサック)」などと侮辱、嘲笑、罵倒する言葉が投げかけられた。当時の現場を記録した映像からそれは確認されているという。