ハムザ氏によれば、デポック市議会の全政党がこの条例案を本会議で議論することには賛成しているという。「議会の全会派、政党が議題として取り上げることに賛成しており、市内の各宗教関係者からの支持も取り付けている」と主張している。

インドネシアで吹き荒れる「モラルパニック」 標的はLGBT

昨年11月、インドネシアの首都ジャカルタ郊外で行われた反LGBTデモ(2018年11月9日撮影)。(c)Sandika Fadilah Rusdani / AFP 〔AFPBB News

 デポック市ではすでに2012年に市条例16号で「公の場所での不道徳な行為」を禁じている。しかし「具体的にLGBTの人々の行為を禁じているわけではない。例えばカフェに同性の者同士が繰り出し、公衆の面前で抱き合う様子などは見たくない。デポックは住民にとって気持ちよく、そして宗教的に暮らしやすいところなのだから」と説明している。

 条例案では「LGBTによる公の場での同性愛を思わせる、キスや抱擁などの行為の規制や住民による監視、通報」などが盛り込まれているという。

 そこにはLGBTなど社会的少数者への配慮も人権感覚も感じられないものの、「市民の声」「多数を占めるイスラムによる宗教上の規範問題」という“錦の御旗”に誰もが正面切って反対しづらい状況が醸成されている。

政府与党支部からは条例案に疑問の声

 しかしマスコミなどでデポック市議会の動きが報道されるに従い、そうした「異常な空気」に懸念を示す一部政党から条例案に疑問を示す声が出始めている。

 ハムザ氏による「HIV感染者の増加がLGBTの人々と関係がある」かのような主張にはなんら科学的根拠がないことなどから政府与党である闘争民主党(PDIP)デポック支部からは「印象操作に基づく人権侵害の疑いがある」と本会議での討論に疑問を示す声が出ているのだ。

 PDIPデポック支部のヘンドリック・アンケ・タロ市議会議長は「この条例案はまだ本会議での正式な議題にはなっていない」としたうえで「たとえLGBTの人々の行為や行動が他の人々の目に余るとしても、条例を成立してまで個人の行動を過度に制限することには慎重になるべきである。なぜならLGBTの人々にも基本的人権があるからだ」と主張、市議会全体がLBGTの人々の行動を条例で規制しようとする動きに懸念を示している。