インドネシアではイスラム法の限定的施行が許されているスマトラ島北部のアチェ特別州以外の全ての州で「同性愛などLGBTの人々の行為」は法律で禁じられていない。しかし、2018年には西スマトラ州の地方都市パリマンで「同性愛行為を禁止し、違反者は罰せられる」とする条例が成立した例が報告されている。
問われているのはインドネシアの寛容
イスラム教では同性愛行為や男性の女装、女性の男装などを「イスラム教の教えに反する」として反対の姿勢を示している。反対を唱えるだけならまだしも、女装した男性を地域で吊るし上げる、集団で暴力を振るう、長髪を公衆の面前で刈り上げる、消防車のホースで水を浴びせて女装を脱がせる、男性らしい大きな声での発声訓練を強要する、などというリンチ(私刑)も横行するなど人権侵害事案が各地で相次いでいることも事実。
同性愛者がよく集まるというカフェやマッサージパーラー、バーへの集団襲撃や警察による手入れもよく行われている。
こうした風潮の中、首都ジャカルタに近く、最高学府のインドネシア大学デポックキャンパスも近いデポック市というジャカルタのベッドタウンでの反LGBT条例の行方が大きな注目を集めているのだ。
ジャカルタの東に隣接する西ジャワ州ブカシ県スカタン郡では2019年5月に地元に暮らすヒンズー教徒の人々がヒンズー教寺院を建設しようとしたところ、イスラム教徒の集団が押しかけて「イスラムの土地を汚すな」「建設を強行すれば聖戦(ジハード)で抵抗する」などと反対する騒ぎも起きている。
国を二分した大統領選が5月に決着し、再選続投を決めたジョコ・ウィドド大統領と、対立候補として惜敗したプラボウォ・スビアント氏とによる直接会談によって、選挙戦のわだかまりを解消する「和解」が7月13日に実現したインドネシアだが、国民の寛容に基づく「多様性の受容」がいま改めて問われていると言える。
プラボウォ氏はデポック市議会に反LGBT条例を提案した「グリンドラ党」の党首でもある。しかし、プラボウォ氏がこの問題で公に発言したことはこれまでのところ、まだない。