(PanAsiaNews:大塚智彦)
インドネシアでいま、地方都市や人権団体、そしてマスコミから注目されている「市条例」がある。ジャカルタ南郊にある西ジャワ州デポック市が市議会で成立を目指している条例だ。性的少数者である「LGBT」の権利を制限する内容で、人権団体からは「差別条例だ」「人権侵害だ」と厳しい反対の声が上がっているが、条例案を7月議会の本会議に提出した野党「グリンドラ党」に対する市民の支持は強く、同党デポック支部は他政党の支持を取り付けて条例案の議会での賛成多数による成立を目指している。
インドネシアは、世界第4位の人口(約2億6000万人)の88%がイスラム教徒という世界最大のイスラム教人口を擁する国である。建国の父スカルノ初代大統領の英断でインドネシアはイスラム教を国教とはせず、キリスト教、ヒンズー教、仏教など他宗教をも認めることで多種多様な民族による国家の統一維持を目指したことから、国是は「多様性の中の統一」であり、「寛容」こそがそのキーワード、と言われている。
しかし、実際のところ最近のインドネシアを覆っている空気は、圧倒的多数のイスラム教徒による「暗黙のイスラム優先の押し付けと他宗教による忖度」で、性的少数者のみならず民族的少数者、宗教的少数者など「少数者」への偏見と差別、人権侵害が堂々とまかり通る深刻な状況に陥っているのが現状なのだ。
デポック市でLGBT差別条例が議会に提出されて成立を目指す動きが真剣に検討される背景にも、そうしたインドネシア全体を暗雲のように覆う重苦しい空気が影響しているのは確実だ。
LGBTとエイズを関連付けた条例案
条例を提案したグリンドラ党デポック支部のハムザ氏は、地元紙の取材に対し7月25日、「デポック市ではHIVの感染者が急増していることに関連してLGBTの人達の行動に対する市民からの苦情が届いている」と提案の理由について説明している。
デポック市保健局によると、同市のHIV感染者は2014年に49人だったが、2015年には146人に増加、2016年に278人、2017年に372人と増加の一途をたどっているという。
特に2017年の374人の感染者のうち、62%に当たる232人は年齢が25歳から49歳としている。ただし、保健当局はHIV感染が同性愛行為によるものかどうかなど、感染源や感染者の性別に関しては明らかにしていない。