社会が歪んでいたのだ。その後、村上は「リブセンス」を起業、事業をアップデートし続けた。応募があった時点でなく雇用が決まった時に料金をもらうシステムに変えて顧客企業を一気に増やし、さらにはバイトが決まった応募者に自社の売り上げからボーナスを出すことにしてアルバイトを探す側を一気に増やした。この施策が奏功し、リブセンスは創業2年目には黒字化、村上は史上最年少で東証マザーズへ上場を果し、翌年には東証一部へ市場変更をしている。

 その後、『ジョブセンス』は『マッハバイト』へと進化。知名度が高まっているにもかかわらずサイト名を変更したことに、村上のこだわりが見える。創業から10年以上が経った今、掲載費のかからないモデルは珍しくなくなった。さらなる付加価値をつけようと新たに打ち出したのが“スピード”だ。情報の量が爆発的に増えている今、「検索」する側は情報の海に溺れてしまう。そこで、ユーザーインターフェースにこだわり、超速でバイトを探せる体験の差別化をはかったのが『マッハバイト』だった。

「どんな業界でも、世の中は“あるべき方向”に変わっていくものだと思います。しかしこの過程で、一瞬、変化が遅れる場合があるんです。ここに起業のチャンスがあります」

 ここから彼は『転職会議』『就活会議』等のサイトを立ち上げ、アルバイト以外の求人情報も扱うようになった。さらには不動産サイト『イエシル』の運営も開始した。不動産を買うなら、地盤の安全性や災害リスク・学区などの周辺情報もチェックしたい。しかしハザードマップは自治体ごと・災害ごとに分散するため検索には膨大な手間が必要だった。そこでリブセンスはITの技術を駆使し、これらをワンストップで確認できるサイトを立ち上げたのだ。

「自己啓発」を体系化したデル・カーネギーは「常に心を変化に向けて開いておこう。変化を歓迎しよう。もてなそう」と言い、ピーター・ドラッカーは「変化はコントロールできない、できるのは変化の先頭に立つことだけである」と言った。身近な変化を読み切ったことが、村上青年にほんの一瞬のチャンスを与えたのだ。

人材業界の未来は「データ」が握る

 村上は「人材業界の未来」をどのように思い描いているのか。訊ねてみると彼は“データ”が鍵だという。

上場記念の鐘を叩くセレモニーを行う村上氏