マズローは人間の欲求を5段階にわけた。1段階目が『生理的欲求』、次が『安全欲求』次が、社会、家族などに帰属したいと願う『社会的欲求』だ。昭和から平成にかけての日本社会は、多くの庶民にこれを与えた。しかし、4段階目、人に認められたいと願う『承認欲求』や5段階目の『自己実現の欲求』は、まだ完全に満たされている人間は少ない。要するに現在の求職者は“食っていく”ためでなく、企業が持つ社会性、理念、倫理感に共感して「ここで働きたい」と考えるようになっているのだ。

「一方で“法的には合法だけど、本当はこういうやり方ってひどいよね”と思われてしまう会社は共感を失い、採用に苦労し、ひいては衰退していく可能性があります。言葉が難しいのですが、それはITにより個人が力を持つことで生まれた“ソーシャルメディアによる浄化”と言えるかもしれません」

 以前は、企業内部の揉め事は内々で処理することができた。しかしネットにより「情報の偏り」が解消された結果、今まで表面化することがなかった社員の不満は簡単に表面化し、顧客や求職者の共感を失わせる。

「今まで企業は“合法だからいいよね”という視点で事業を運用していたはずです。しかし今後は“ネット上での合法/違法”(ネットユーザーが共感できるかできないか)が問われる時代が来るでしょう」

 企業は法務部によってイリーガルを回避してきたが、今後はSNSなどで受け手がどう捉えるかを前提に、自社内を浄化させなければならない。事実、広告制作の現場では、既に「炎上チェック」を行う企業が売り上げを急伸させている。

 人口減により人材確保は企業の難題となり、かつ市場では「食っていくため」だけに働く人間は減っている。ならば、人材を欲する会社が変貌していくべき方向はおのずと決まっているのではないか――。我々の問いかけに村上はこう答えた。

「今後、あらゆるビジネスは社会課題解決型になることがますます求められていくでしょう。そのうえで、一人ひとりの社員の『これを実現したい』を叶えられる場を会社側が提供する。私たちの会社も、まさにその方向に組織を変更させているところです」

 今後、リブセンスは「求職」と「採用」の狭間で、どんな世界を実現するのか。まだ容貌に少年らしささえ残す若き村上なら、その事業を人材コンサル、人材教育まで進めていくのではないだろうか。(文中敬称略)

◎取材/石田紗英子(IZUMO)、文/夏目幸明(IZUMO)

【石田の視点】
 村上さんの「世の中はゆっくり正しい方向へ向かっていく」という言葉が印象的でした。そして、その“ゆっくり”のタイムラグの間に具体的な一手を打てる人こそが次世代を創っていくのだと確信しました。逆に言えば、“アップデート”が遅れた組織は、新たな参入者に負けていくという、厳しい内容でもあると感じました。村上さんが今後どう未来を捉えていくのか、目が離せません。