バーナード氏は、シリアの刑務所からラフィク・シェハデ軍事情報部長に送られた大量の死亡者報告書などの内部文書を入手した。それには、大量処刑が命令として行われていたこと、アサド大統領にも報告されていたこと、当局者が将来の訴追を恐れていたことなどが示されていた。
同紙のスクープ記事は、こうして大量の拷問・処刑の「証拠」を白日の下に晒すとともに、生還できた人々も直接取材し、その凄まじく非道な実態を伝えた。具体的な拷問の手法なども判明しているが、男女ともに酷い性的拷問を受けるケースが非常に多いという特徴があった。
同記事によれば、この秘密拷問処刑刑務所は、先代のハフェズ・アサドが構築したもので、20年以上の期間に1万7000人が消されたという。
それは2000年に現在のバシャール・アサドが父親の跡を継いだ後に、さらに強化された。政治的に不当に拘束された総人数は、数十万~100万人とみられるが、そのうち現在も消息のわからない人数は約12万8000人に上る。そのうち、少なくとも2011年の紛争発生後に密かに「消された」と思われる人数は、10万人を超えるものとみられる。凄まじい人数だ。
この報道は欧米で大きな反響を呼んだ。米国では公共放送「PBS」が5月13日、バーナード氏へのインタビューを「シリアでは10万人以上がアサドの刑務所に入れられ、そして戻らなかった」と題して放送した。
◎ In Syria, more than 100,000 have entered Assad’s prisons ─ and never returned
さらにニューヨーク・タイムズは5月17日、補足記事として「シリアの秘密拷問刑務所についての質問と回答」という記事を出している。
◎ Questions and Answers About Syria’s Secret Torture Prisons
ちなみに、バーナード氏は、前述したアサド政権とロシアが国際社会に復興資金の提供を呼び掛けていることに対し、そうした資金が秘密拷問刑務所のようなアサド政権の恐怖支配の復興資金となることを指摘している。
国民の40人に1人が殺害されている
なお、この「10万人以上」という数字がどれほど突出しているのか、シリア紛争の全体の犠牲者数と比較してみると、その割合の大きさがわかる。
人権団体「シリア人権監視団」が今年3月15日に発表した報告によると、2011年以降の8年間で、犠牲者総数は推定57万人以上。これは紛争前の総人口が約2200万人だったことからしても、全国民の40人に1人が殺害されているという、凄まじい人数だ。