同監視団では、そのうち身元や死因が特定できたケースを約37万人、把握している。そのうち、民間人の犠牲者は約11万人だ。そのうち、ロシア軍やイラン系部隊も含めたアサド政権陣営によって殺害された人は約9万4000人に上る。

 このうちアサド政権の刑務所で殺害されたことが確認された人が約1万6000人とされているので、「アサド政権側に殺害された民間人(刑務所で処刑された人以外)で、身元が判明しているケース」が約7万8000人となる。

 それも凄まじい数字だが、それらの数字と比べても、「アサド政権の刑務所で不当に拘束され、その後の消息が不明な人」が10万人以上というのが、いかに大きな数字かわかる。シリアの人々にとって、アサド政権の空爆も恐怖だが、突然身柄を拘束され、拷問されて処刑される恐怖が、どれほどリアルなものかがわかるだろう。

 ちなみに、同報告によれば、ISが過去に殺害した民間人で身元が判明している人数は約6000人。その他に、ISが不当に収監して消息不明になっている人が約4500人いるという。

 もちろんISの残酷な行為は許されないが、それでもアサド政権の「10万人以上」はケタが違うレベルである。シリア紛争の報道ではISの残虐性ばかりが注目されたが、アサド政権の人道犯罪は、それをはるかに上回る。

ロシアが発信するフェイクニュースに要注意

 ところで、5月17日、ロシア政府の宣伝機関「スプートニク」が「シリアのイスラム過激派が化学兵器を使ったテロを準備中」とのフェイク情報を報じた。ロシアがこうしたフェイク情報をわざわざ流すということは、逆にアサド政権が再び化学兵器攻撃を実行する布石の可能性があり、警戒する必要がある。

 なお、この「シリアの反体制派が自作自演の化学兵器テロをしている」というフェイク情報は、ロシアの宣伝機関がいまだに発信し、アサド擁護のブログやSNSアカウントがせっせと拡散しているが、それがいかに偽の情報工作であるかは、筆者も機会があるごとに検証記事を書いてきたし、テレビでも明言してきた。

 その決定版ともいうべき検証が、英BBCの看板番組「パノラマ」で2018年10月に放送された。その日本語書き起こし記事が今年2月、BBC日本語版サイトにアップされたので、いまだに「シリアの化学兵器攻撃は反体制派の自作自演かもしれない」との疑念を持っている方に、ぜひお薦めしたい。

◎「シリア内戦:化学兵器はどのようにアサド政権を支えたのか」(2019年02月4日)