たとえば、人権団体「シリア人権ネットワーク」は、2018年のアサド政権による不当な拘束が5600件あったとしている。これは1週間に100人以上というペースで、2017年より25%増えている。アサド政権の支配が強化されると、それだけ増加するのだ。
ピンハネされる復興支援金
そんなひどい戦争犯罪が継続中にもかかわらず、アサド政権とロシアは現在、拡大した占領地域での復興のため、資金の提供を国際社会に呼び掛けている。
ただし、そうした資金はすべてアサド政権が受け取り、国連機関にも援助団体にもシリア国内での事業への自由なアクセスは認めていない。そのため、明らかに支援金の中抜き(ピンハネ)が横行している。
それだけではない。たしかに支援金の一部はアリバイのために人道支援にも使っているが、それ以外のほとんどが使途不明になっている。つまり、現在も住民殺戮を継続中のアサド政権の体制立て直しという意味での復興資金になっているわけだ。
こうしたアサド政権への資金提供の中心になっているのが、本来は国際的な開発の支援を担う「国連開発計画」(UNDP)だが、その歴代の幹部が日本人職員だということもあって、日本政府が資金の多くを提供している。つまり、これだけの戦争犯罪を継続中のアサド政権に、日本の税金が提供されているのだ。
こうしたことについては、「同じ日本人つながり」ということで、NHKなど日本のメディアがその様子を肯定的に報じることもあるが、UNDPのこうしたやり方には、国連人権人道問題調整事務所(OCHA)系メディアが批判記事を掲載するなど、問題を指摘する声も現場ではある。
◎EXCLUSIVE: UN shelved 2017 reforms to Syria aid response
(独占記事:国連はシリア支援の2007年の改革案を棚上げした)
The Humanitarian (formerly IRIN News)
NYタイムズが暴いた刑務所の実態
このように、さらに住民の被害が拡大しているシリアの紛争では、アサド政権の人道犯罪が最大の問題なのだが、そうした実態を暴いた「ニューヨーク・タイムズ」のスクープ記事が、現在、シリア問題を追っている海外の研究者や記者から賞賛されている。
同紙が5月11日に報じたその記事は「シリア秘密拷問刑務所の内幕~バシャール・アサドはいかに反対派を弾圧してきたか」という記事で、執筆者は同紙の元ベイルート支局長だったアン・バーナード氏である。
◎ Inside Syria’s Secret Torture Prisons: How Bashar al-Assad Crushed Dissent