北朝鮮の発射実験「弾道ミサイルではない」 米国防総省

北朝鮮人民空軍の飛行訓練を視察する金正恩朝鮮労働党委員長(2019年4月17日配信、撮影地不明、資料写真)。(c)AFP PHOTO/KCNA VIA KNS〔AFPBB News

(黒井 文太郎:軍事ジャーナリスト)

 5月4日の北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射に対し、韓国政府が迷走している。

 同日、韓国大統領府は「北朝鮮の今回の行為は、南北間の軍事合意の趣旨に反するもので、非常に憂慮している」と懸念を表明したが、実際に北朝鮮が行った行為については、とにかくそれを矮小化し、問題にしない方針を貫いている。

 たとえば、同日の発射を受けて、韓国軍合同参謀本部は当初、「短距離ミサイル」としていたが、わずか40分後に「短距離発射体」と修正した。同日、聯合ニュースは韓国軍幹部の話として「弾道ミサイルではない」とも報じた。

 この場合、仮に弾道ミサイルだったということになると、国連安保理決議で北朝鮮が禁じられている「弾道ミサイルの発射」に抵触する。北朝鮮との融和政策を進めている文在寅政権としては、北朝鮮が安保理決議に違反などはしていないほうが望ましい。なので、そうした願いがあったのだろう。

 しかし、翌5月5日、北朝鮮自身が朝鮮中央通信と労働新聞で写真を公開し、彼らが発射したのが2種類の多連装ロケット砲に加え、外観がロシア製「イスカンデル」短距離弾道ミサイルに酷似した新型短距離弾道ミサイルだったことが確認された。

 しかし、それでも韓国政府は、あくまでミサイルと認めていない。韓国国防部は5日、「北朝鮮による短距離発射体の打ち上げに対する立場」を発表し、あくまでミサイルと認定することに抵抗し、それ以降も短距離発射体という言い方に固執している。国家情報院も6日、国会情報委員会への報告で「地対地とみられる」としながらも、「ミサイルか否かは分析中」と答えるに留めた。

 翌7日には、韓国国会国防委員会の安圭伯委員長が、国会で国防部と軍合同参謀本部から報告を受けた後、記者団に「短距離ミサイルでない可能性が高い」と発言している。短距離弾道ミサイルの定義が「射程1000キロメートル以下」なのに対して、今回は飛翔距離が約200キロメートルにすぎなかったことを引き合いに出してのコメントだが、よくわからない謎理論である。

 だが、いちばんの問題はそこではなく、安保理決議違反になる「弾道ミサイルか否か?」である。これはもう事実として弾道ミサイル以外の何物でもない。まぎれもなく安保理決議違反である。