民意調査とういのは誰がどのように集計するかによってかなりの誤差があるので鵜呑みにできないとしても、今の台湾世論が、度重なる中国の軍事的恫喝と経済的甘言に流れて、戦争を恐れ、平和を望むあまり、「“和平協議”に応じても」という考え広がっている現実はある。また、「中国の台湾メディアコントロールや民進党に対するフェイクニュース攻撃などによって、台湾民意が中国に都合のよいように誘導されている」という民進党側の指摘はまんざら出鱈目ではないだろう。だからこそ、台湾人ではない外野からみれば、この民意の傾向はかなり危なかしく感じる。だが、選挙はそうした、危なかしい民意も反映するものなのだ。

 国民党の候補は絞り切れていないが、こうした民意を受けて親中路線を掲げて選挙戦を戦うとなると、民進党としてはこれに絶対負けるわけにはいかないし、また中国の台頭を国家安全上の脅威と捉えている米国や日本も他国の選挙だとぼんやり眺めているわけにはいかなくなってくる。民進党が選挙に勝つために「米国や日本など西側民主主義陣営と共通の価値観をしっかり持っている」というアピールが必要ならば、協力することはやぶさかではないはずだ。

 おそらく米国もそのように考えているからこそ、マルコ・ルビオ、テッド・クルーズら共和党議員団が2月に、ペロシ下院議長に蔡英文を議会演説に招請するよう求めたのだろう。蔡英文の米国議会演説が実現するかどうかはまだ不明だが、仮に実現すれば、台湾に今蔓延している諦めムード的な中台統一世論の流れが変わるかもしれない。

エスカレートする米中の駆け引き

 このように台湾が中国と統一するかしないか、その命運を占うぐらいの意味を持つ来年の台湾総選挙を前に、米中の台湾を挟んで駆け引きはエスカレートするだろう。

 ひょっとするとトランプが台湾旅行法を根拠に、台北に降り立つことがあるかもしれないし、習近平の指示で解放軍海軍が南シナ海の台湾が領有を主張する大平島の実効支配権を力ずくで奪うかもしれない。あるいは台湾海峡上で米中軍用機や艦船がニアミスをしたり、偶発的事故が起きたりしても不思議ではない。

 台湾の民意とはかけ離れたところで起きる米中大国の思惑、行動に翻弄される台湾の運命には同情するが、どうか台湾はこの大国の攻防の狭間をうまくかいくぐり、この危機を、自由と民主を確立した国家としての道を切り開いていくチャンスに変えてほしい。