この危機のきっかけは、1994年初頭に、李登輝が米コーネル大学講演のためのビザ発給問題を梃に米国の対台湾姿勢を軟化させ、中国を慌てさせたことだった。ざっくり言えば、老獪な政治家、李登輝が米国をうまく利用し、台湾の国際社会における存在感と地位のステージをランクアップさせたうえ、台湾関係法の有効性を確認し、台湾アイデンティティを萌芽させた事件といえる。仕手はむしろ李登輝の台湾サイドで、勝者も台湾だった。
だが今の台湾をめぐる危機感は、むしろ米中対立の先鋭化が先で、台湾が“巻き込まれる”状況だろう。
胡錦濤政権と馬英九政権の時代の中台関係は、経済融和が着々と進み、米国の付け入るスキがほとんどなかった。米国識者の間でも、中台の“平和統一”に米国が反対する理由はない、という考えが主流だった。これが、中国の習近平政権の登場によって大きく変わる。つまり、習近平が台湾統一を急ごうとしたことに台湾の若者がノーを突きつけ、「ひまわり運動」が起きて民進党政権が登場した、という流れである。
そこへ米国でも中国に強い警戒心を持つトランプ政権が登場し、米中対立の先鋭化の中で、トランプ政権自身が台湾との距離感を変え始めた。
トランプ政権は昨年、台湾旅行法、アジア再保証イニシアチブ法、国防授権法などを通じて、台湾との関係の緊密化を急激に進めた。最新鋭武器を含めて台湾への武器売却によって台湾防衛能力強化支援を打ち出している。また新しくなった米国在台湾協会庁舎は、他国の在外公館同様に海兵隊に警備されるようになり、事実上の格上げとなった。
特に今年に入って、台湾が米国にF16V戦闘機66機の売却を要請し、トランプ政権がそれを前向きに検討していることは、米台関係のステージが新たな段階に入りつつあるという、中国を含む国際社会に対するシグナルかもしれない。米国が戦闘機を台湾に売却したのは20年以上前のジョージ・ブッシュ(父)政権時代だ。
台湾統一への焦りを見せる習近平政権
一方、中国の習近平政権も台湾統一への焦りを見せている。年初に「台湾同胞に告げる書」40周年記念の演説で「祖国統一は必須で必然だ」として武力行使による統一も辞さない勢いで一国二制度下による台湾併合への意欲を見せた(参考「台湾をめぐって何かが起きるかもしれない」)。また人民解放軍には「軍事闘争準備」の大号令もかけている。
習近平政権は2期目に入ってから、「国際秩序の再編成に中国が積極的に貢献する」という表現で、中華秩序、中華ルールで支配する中華圏の拡大の野望をはっきり打ち出すようになった。この野望実現のための戦略が、新シルクロード構想「一帯一路」であり、ハイテク技術の国産化目標を盛り込んだ「中国製造2025」である。だが、この2つの戦略は、目下米国に妨害されていることもあり、うまくいっていない。さらに中国経済の急失速も重なり、党内国内から厳しい批判の声が出始めている。これを一気に挽回し、習近平が共産党指導者としての正統性と実力を示す一番理想的な方法があるとすれば、それは「両岸祖国統一の夢」実現だ。